【小宮良之の日本サッカー兵法書】良い選手はどこから、どのようにして生まれるかを改めて考える

2018年03月09日 小宮良之

ストリートは多くの天才を生んできたが…

自身はストリートで育ち、バルサで優れた育成機関を作り上げたクライフ。そんな彼が子ども時代、野球にも熱中していたのは有名なエピソードだ。捕手としての経験がサッカーにも活かされたとも語っている。 (C) Getty Images

 どのような育成環境から、優秀な選手は生まれ育つのか?
 
 一概に言い切るのは難しい。
 
 例えば、環境面を整える、というのは正攻法だろう。ただし、テクニカルな選手は必ずしも、ハード面に恵まれた施設で育っていない。
 
むしろ、南米の道端でボールを蹴っているような選手たちが、目を見張るような技術や閃きを育む。グラウンドが悪かったり、ボールがぼろぼろだったり、日々の生活そのものが苦しかったり、恵まれないことで培えるものもあるのだ。
 
 その点、ストリートサッカーは好選手を育てる原点といわれる。ストリートは、野性の状況に近い。何が起こるか分からず、様々な相手がいて、あらゆる障害が不規則にある。
 そこから、サッカーという競技の上達には最適だといわれる。例えば、「ボールをぶつけたら、怖いおじさんに大目玉を食らうかも……」「車がスピードを上げて向かってくるかもしれない」という緊張感も含め、子どもの神経を研ぎ澄ませるという。
 
 しかし現代では、その環境を確保するのも難しい。日本ではそもそも、安全面や人付き合いの面からも、ストリートサッカーは不可能に近い。世界的にも、消失しつつある。なぜなら、サッカー界では青田買いが当たり前となり、少しでも芽が出たら、クラブでプレーする流れになっているからだ。
 
 そこで、オランダのアヤックスが、ストリートの環境を練習場に作ったことがあった。
 
 しかし、故ヨハン・クライフはこれを、真っ向から否定していた。バルセロナで「ラ・マシア」を確立し、ジョゼップ・グアルディオラ、シャビ、アンドレス・イニエスタ、セルジ・ブスケッツ、そしてリオネル・メッシという天才を生み出した名伯楽は、こう言い切っている。
 
「アヤックスは、練習場にストリートサッカーの状況を、道具を使って作っている。意図は分かるが、この試みは成功しない。なぜなら、ストリートの不規則性はストリートでしか生み出せないからだ」
 
 ストリートの環境は、人工的に作り出せるものではない。

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