日本は才能を無駄にしていないか!? 町田・酒井良コーチが見たセルビアの育成事情【後編】

2018年02月01日 熊崎敬

リフティングをやらないセルビアの子どもたち。

酒井さんが指導を担当したVNのU-14チームがセルビアチャンピオンになった。

 FC町田ゼルビアを草創期から支えた酒井良さんは、2012年の現役引退後、コーチに転身。古巣のアカデミーで育成に携わってきた。その彼が昨季、日本サッカー協会とJリーグの協働プログラム《JJP》の事業の一環として、セルビアの古豪FKヴォイヴォディナ・ノヴィサド(以下VN)に派遣され、1年間研修を受けた。日本と異なる国で彼はなにを見て、なにを感じたのか。日本サッカーが世界のトップクラスに追いつくには、なにが必要なのか。
 
 短期集中連載の最終回は、セルビアの選手たちのメンタリティと日本との指導法、育成環境の違いについて取り上げる。(聞き手・熊崎敬)
 
 
――現場での指導内容には、どんな違いがありますか。
 
 まず、日本とセルビアとでは歴史や文化、国民性などが全然違います。ですから、子どもたちのメンタリティの違いから説明したほうがいいでしょう。
 
 日本人は目上を敬うように教育されているので、自分の意見を言うことに抵抗がありますが、セルビアは正反対で徹底的な個人主義。西側のビッグクラブに移籍できれば人生の展望が一気に開けることもあって、自立心、独立心がとても強いですね。その代わり、日本人のような協調性はほとんどありません。
 
 セルビアでは、そんな子どもたちに実戦的な練習をさせています。かつてオシムさんは「日本の小学生はなんでリフティングするんだ。ゴールは前にあるのに、なぜ上に蹴るんだ」と話していたように、日本と違ってセルビアの子どもはリフティングはほとんどやりません。
 
 11歳くらいになると、もうサッカーの原理原則を理解していて、周りを見て判断してプレーすることができています。その中で自分を表現していました。
 
――印象に残っていることはありますか。
 
 例えば相手がいる複数でのボール回しで取られると、自分のミスでも他人のせいにしようとする。日本だと何度もミスする子どもに、可哀そうだからと代わってあげる子どもがいるでしょう。そんな優しい子どもはいません。他人のミスは他人のミス、自分のミスも他人のミスにして、自分だけ得をしようとする。もちろん多少口論になっても、落としどころは知っています。このあたりの主張の強さは、目を見張るものがありました。
 
 それからトレーニングの中でミスが続いたりすると、選手たちが自発的に議論を始める。日本では「切り替え」のひと言で次に行こうとしますが、ダメだとなったら主張し合う。コーチもすぐに割って入ったりせず、見守っていました。

次ページ日本の育成年代の蹴る力の不足は、「蹴る回数」の問題。

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