なぜ13歳が最も重視されるのか? 町田・酒井良コーチが見たセルビアの育成事情【中編】

2018年01月31日 熊崎敬

日本の多くの選手がぶつかる13歳、16歳、19歳の壁。

試合前にロッカールームに集合するユースチームの選手たち。セルビアでは早期からより育成に熟知した指導者がつくという。

 FC町田ゼルビアを草創期から支えた酒井良さんは、2012年の現役引退後、コーチに転身。古巣のアカデミーで育成に携わってきた。その彼が昨季、日本サッカー協会とJリーグの協働プログラム《JJP》の事業の一環として、セルビアの古豪FKヴォイヴォディナ・ノヴィサド(以下VN)に派遣され、1年間研修を受けた。日本と異なる国で彼はなにを見て、なにを感じたのか。
 
 短期集中連載の第2回となる今回は、日本とセルビアの育成システムの違い、さらにはセルビアの育成哲学について取り上げる。(聞き手・熊崎 敬)


――セルビアには1年弱滞在したわけですが、FKヴォイヴォディナ・ノヴィサド(以下、VN)ではどんな立場で仕事をされたんですか。
 
 2月から12月までVNにいましたが、最初の半年はU-14のコーチをしました。それはこのチームに有望株が揃っていたということ、加えて監督が英語を話すので意思の疎通がしやすという理由もあります。6月からは、そのU-14が1学年上のチームと合体したので、そのチームの指導を手伝いました。
 
――セルビア、もしくはVNと日本の育成は、どんなところが違いますか。
 
 これはセルビアに限ったことではないですが、ヨーロッパや南米と日本との比較では、13歳、16歳、19歳の壁が日本の課題ではないかと思います。ヨーロッパや南米はクラブでの一貫指導なので選手が着実に伸びますが、日本はひと握りのエリートを除くほとんどの選手が学校での部活を経験します。そうなると受験期間も含めた進学過程で、成長が止まってしまう傾向が強い。
 
 例えば中学生では、中3で部活を引退、受験に集中することになってサッカーから遠ざかってしまう。高校に進んでサッカー部に入部しても新しい指導者に慣れるのに時間がかかり、また異なる指導者に教わってきた選手が集まるので、一度考えを整理しなければいけません。こういうところでも時間をロスしかねない。
 
 こうやって日本の選手は小学校から中学校、中学校から高校、高校から大学と進学するたびに立ち止まることになる。
 
――なるほど。
 
 6-3-3制に沿って大会が行なわれる日本では、必然的に小中高とも最上級生の時に結果を出そうという考えのもとで指導が行なわれ、その翌年に停滞する。私が見たセルビアでは違って、すべての年齢でリーグ戦が行なわれていました。こういうところで差がつくわけです。
 
――これはシステムの問題ですね。他にも違いはありますか。
 
 コーチ人事も違いますね。日本では、18歳のチームが育成コーチの花形と考えられています。その次は15歳。ですから優秀なコーチは18歳、15歳を教えるのが、日本の常識になっています。
 
――向こうは違うのですか。
 
 セルビアでは13歳が最も重視されていました。実際、13歳のチームを教えていたのは57歳の指導者。13歳の原石をプロに磨き上げるエキスパートです。13歳というのはとても大切で、かつ難しい時期なので、この1年で選手としての未来が決まるといっても過言ではありません。彼らはそれが分かっているから、優秀な指導者を据えるわけです。
 
 一方、日本は前述したように18歳を重視していて、実際に高校選手権が盛り上がります。でも18歳といったら向こうではすでに、プロになれるかなれないかの答えがほとんど出ています。彼らにしてみれば、18歳の選手にいい指導を施すのは合理的ではないのです。
 
 セルビアでは十代でトップチームで地位を築き、国外に出て行く選手が少なくありません。前述したミリンコヴィッチ=サヴィッチも兄は19歳でベルギーへ、弟も18歳でポーランドに出ていました。日本では高校選手権が盛り上がる年代で、セルビアでは多くの選手が国外に出ています。これは大きな違いですね。

次ページクラブが独自の哲学を持って育成に関わる。

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