財政難クラブでも欧州12位の実績! 町田・酒井良コーチが見たセルビアの育成事情【前編】

2018年01月30日 熊崎敬

“育てて売る“が生きる道。町田に似ているヴォイヴォディナ。

FKラドのアカデミーが使用する貧相なロッカールーム。ここから多くの優秀な選手が西側に輩出されている。

 FC町田ゼルビアを草創期から支えた酒井良さんは、2012年の現役引退後、コーチに転身。古巣のアカデミーで育成に携わってきた。その彼が昨季、日本サッカー協会とJリーグの協働プログラム《JJP》の事業の一環として、セルビアの古豪FKヴォイヴォディナ・ノヴィサド(以下VN)に派遣され、1年間研修を受けた。日本と異なる国で彼はなにを見て、なにを感じたのか。日本サッカーが世界のトップクラスに追いつくには、なにが必要なのか。セルビアから帰国した、酒井さんに尋ねてみた。(聞き手・熊崎敬)
 

――◆――◆――
 
――まず研修先に、日本でほとんど知られていないVNを選んだ理由を教えてください。
 
 ドイツ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフやベルギーの常勝クラブ、RSCアンデルレヒトといったクラブを研修先に選んだ他クラブのコーチもいますが、私がVNを選んだのは、このクラブに町田が学ぶべき哲学があると思ったからです。
 
 ご存知の通り町田は、FC東京、川崎フロンターレ、横浜F・マリノスといった大都市をホームとするビッグクラブに囲まれています。そうした中で小さな町田が生き抜くには、アカデミーの充実が欠かせません。
 
 限られた地域で素材を発掘、育成して、彼らがトップチームで活躍する。その選手たちがJ1の強豪クラブ、さらには海外に移籍し、そこから得られる収入によってクラブを運営しようと考えているからです。ヨーロッパでも素晴らしい育成実績を持つVNは、そのモデルになると思いました。
 
――VNというと、あまり聞き慣れませんが。
 
 小さなセルビアの中でも、実績や資金力では3番手に過ぎません。でも裕福なレッドスター、全国的なスカウト網を持つパルチザンというベオグラードの2強に、独自の育成哲学で対抗している。そこでこのクラブのアカデミーには、町田が学ぶべきヒントが隠されているはずだ、実際に見てみようと考えました。
 
――VNの育成実績を教えてください。
 
 まずVNに限らず、旧ユーゴスラビアのクラブは育成に優れています。以下は2017年10月1日時点でヨーロッパ31の国と地域のトップリーグに、どのクラブが何人の選手を送り込んだかというランキングです。
 
== == == ==
 1位 アヤックス(オランダ)          71(7)人
 2位 ディナモ・ザグレブ(クロアチア)     67(10)人
 3位 パルチザン・ベオグラード(セルビア)   61(4)人
 4位 レアル・マドリー(スペイン)       58(8)人
 5位 スポルティング・リスボン(ポルトガル)  55(7)人
    シャフタール・ドネツク(ウクライナ)   55(9)人
 7位 スパルタ・プラハ(チェコ)        54(8)人
    ディナモ・キエフ(ウクライナ)      54(10)人
 9位 レッドスター・ベオグラード(セルビア)  52(4)人
 10位 ベンフィカ・リスボン(ポルトガル)    51(5)人
 11位 バルセロナ(スペイン)          50(7)人
 12位 ヴォイヴォディナ・ノヴィサド(セルビア) 47(9)人
 大手リサーチ会社『football-observatory』調べ。
 対象は15歳から21歳までに少なくとも3年以上在籍した選手。 カッコ内は現在もそのクラブに所属する選手の人数。
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 錚々たる名門クラブが並ぶ中、VNは12位。つまりVN育ちの選手はヨーロッパ中で活躍しています。育成実績はヨーロッパでもトップクラスです。

次ページ集客力が弱いから選手を育てるしかない。

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