【選手権】「0-0で良い」と言った百戦錬磨の指揮官。前橋育英はなぜ攻めあぐむも勝ち切れたのか?

2018年01月03日 小林健志

相手が守りを固めてくることも想定内。「焦らずじっくりやれば」。

2試合連続でゴールを奪った前橋育英の飯島。後半アディショナルタイムの決勝弾でチームを勝利に導いた。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

[高校サッカー選手権3回戦]富山一 0-1 前橋育英/1月3日/等々力
 
 攻めながらも点が奪えない――。日本でボールポゼッションを大事にするチームは、こうした展開に陥りがちだ。この日の前橋育英もまた、「前から行くと見せかけて閉じこもって守備をやってみた」と富山一の大塚一朗監督が語った通り、5バックのラインを自陣深くに設定した富山一に、攻撃をはね返され続けた。
 
 PK戦突入も濃厚となってきた後半40+3分、前橋育英はボランチの塩澤隼人(3年)が思い切ってミドルシュートを放つ。これが富山一DFに当たって、2回戦の初芝橋本戦で4ゴールの活躍を見せたFW飯島陸(3年)の足下へ入った。飯島が右足を振り抜いてゴール右隅にシュートを叩き込み、ついに均衡を破る。富山一の堅守をこじ開けた前橋育英が劇的な勝利を挙げた。
 
 守備的な相手に攻めても点が取れない展開では、焦れてミスが多くなってカウンター攻撃を受けて失点するケースはよくある。しかし、百戦錬磨の名将、前橋育英の山田耕介監督は動じなかった。
「ある程度ボールポゼッションするとは思いましたが、なかなかスペースがないので攻めあぐねるだろうとも思っていました。おそらく3-5-2(5-3-2)で来て、両サイドのスペースを消されますので、ディフェンスラインと3人の中盤の間で空いたスペースを使って逆サイドへ展開しようと思いました」と山田監督は、試合前から相手が5バックで守りを固めることも想定し、中央の3人の中盤のギャップを突きながら、相手を引きつけて逆サイドに展開する形を目指した。
 
 前半攻めながら得点を奪えなかった中でも動じなかった。
「このままで良いと思うので、焦らずじっくりやればビッグチャンスは絶対来る」と山田監督はハーフタイムに選手たちに声をかけた。チームを救うゴールを挙げた飯島も「監督からは0-0でも悪くないと言われ、後半戦我慢して点を取っていこうと言われました。チームメイトとも相手が引いて中盤が空いているので、そこで慌てないでつないでいこうと話しました」と語る。
 
 多くの厳しい試合を経験してきた名将に「このままで良い」と言われたことで、前橋育英は落ち着いて持ち前のパスワークを継続することができた。
 
 山田監督は攻撃の部分では自分たちのやり方を貫かせたが、守備に関しては厳しく指示した。
「こういう我慢比べは失点があるとダメです。富山一の怖いところはロングスローやFKなどリスタートの部分です。これはスキルの部分ではありません。『隙を作るな!』とはずっと言っていました。富山一の2トップは良い選手でしたが、2人のセンターバックがよく抑えてくれました。ディフェンスラインは2年間同じメンバーですからコンビネーションが良くてストロングポイントだと思います」
 
 守備では細心の注意を払わせ、無失点勝利に大きく貢献したG大阪加入内定のDF松田 陸(3年)、DF角田涼太朗(3年)の2人のセンターバックの頑張りを称えた。

【選手権PHOTO】3回戦 富山一0-1前橋育英 劇的AT弾で前橋育英がベスト8進出

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