魂を揺さぶる言葉がそこにある…名伯楽、小嶺忠敏のイズムと真髄(前編)

2017年12月24日 川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

やはりここ(グラウンド)が楽しいというのはあるよね

72歳とは思えない活力が漲る。今年も選手権の檜舞台で、名将が采配を振るう。(C)SOCCER DIGEST

 130人強の部員たちがフルコート一面に広がり、一斉にボールを蹴り出すのだ。なんとも壮観な光景で、こちらが到着すると、これまたボウズ頭の全員が直立不動で挨拶をしてくれる。途轍もない既視感。フラッシュバックのように蘇ったのは20年前の記憶で、国見高校で見た眺めとほぼ同じだった。
 
 やがてその人波をかき分けるように、"先生"が登場。場が、ピリっとする。「おお、来たかね。全校生徒の3分の1がサッカー部員なんだ。こんだけたくさんおるけど、スタッフが少ないからね。身体がもたんよ」と自嘲気味に笑う。長崎総合科学大学附属高校サッカー部を率いる、小嶺忠敏監督。72歳になられた。
 
 言わずと知れた高校サッカー界の巨匠だ。島原商、国見を全国屈指の強豪校に鍛え上げ、インターハイ優勝6回、全日本ユース(現・高円宮杯プレミアリーグ)優勝2回、高校選手権6回と、合計14回の全国制覇は戦後最多の大記録である。2007年からは長崎総科大附に籍を置き、大学チームなどを統括的に指導する総監督の立場だったが、昨年春、高校サッカー部の監督に就任した。グラウンドに、現場に、名伯楽が舞い戻ったのである。
 
 情熱家を突き動かしたのは、教え子たちへの愛と長崎高校サッカー界への危機感だった。
 
「本当は僕なんてもう必要ないんだろうけど、居ても立ってもいられなくてね。このままでは長崎の高校サッカーはずっと全国で戦えないレベルのままだという危機感があったし、この子たちをしっかり鍛えなおしたいという想いもありました。風紀の乱れというか、普段の生活に目に余るところがあってね。この歳になって、一緒に寮生活をするようになりましたよ。1年のつもりで復帰したけど、2年目になった。やはりここ(グラウンド)が楽しいというのはあるよね」
 
 最初に気づいたのは、生徒たちの服装の乱れだった。そこから突き詰めていくと、やはりさまざまな面での緩みが散見したという。ぐいぐいとチームの中に入り込んでいく名将。3年生で主将の田中純平は、あっという間に空気が変わったと振り返る。
 
「総監督から監督になってからは、関わり方がガラっと変わったというか、距離が近くなったのと同時にすごい緊張感が生まれました。僕たちとは孫くらい歳が離れてるんですけど、いつも監督からコミュニケーションを取ってくれる。冗談とかも交えながらです。だから僕たちも理解しようと努力する。いいチームになったなって本当にそう思いますから。個人ではなく組織で戦うことの大切さを、ピッチの中でも外でも徹底して教え込まれてます」

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