元アーセナル戦士の独白(2)――あの北朝鮮戦の真相とポジティブで居続ける理由「最期に父と話せなかったから…」

2017年11月23日 羽澄凜太郎(サッカーダイジェストWeb)

その溌剌とした明るさの裏にある過去の記憶。

浅草寺の前でパシャリ。瞬間的に表情を作るエブエはスターの輝きを放った。 写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

 アーセナルへの愛に富んだインタビューの最中、エブエからは前向きな言葉が多く聞かれた。時折、白い歯を見せてジョークを飛ばす姿からは、元プレミアリーガーだからという奢りのようなものは、全くと言っていいほど感じられなかった。
 
 思えば、現役時代から愉快な話題には欠かない選手であった。2010年南アフリカ・ワールドカップのグループステージ最終節・北朝鮮戦では、相手の監督と選手の間に入り、ミーティングに聞き入る素振りを見せ、世界中で話題となった。
 
 この場面の真相について、エブエは笑いながら明かしてくれた。
 
「試合は僕らが3-0で勝っていて結果も明らかだったし、両チームともグループステージ敗退が決まっていたからね。感じるままにやったのさ。何か思い出を作っちゃえってね。悪気があってやったわけじゃなかったし、僕自身、幸せだったよ。北朝鮮の選手もみんな笑ってくれたし、やってよかったと思う」
 
 アーセナル時代もゴールを決めたチームメイトとダンスを踊ったりと、常に明るいオーラに包まれていたエブエ。その溌剌さは生まれつきなのかと問うと、一瞬、真顔になり、意外な言葉を返してきた。
 
「いや、そういうわけじゃない。父を亡くしたころからだ」
 
 思わず、記者が口ごもると、それを察して話を続けてくれた。
 
「11歳の時さ。父の最期に会話を交わすこともできなかったんだ。辛かったけど、そこから『人生は悪いことしかない』とは考えないようにしたんだ。悪い方向に物事を考えだしたら人間は病にかかる。今、何が起きるかということが大事なんじゃなくて、常に前向きに考え続けることが大切だと思っているよ」
 
 そのポジティブさは、父の死を乗り越えるなかで生まれたものだったのだ。
 

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