【W杯ドキュメント】メンバー発表のドラマ|トルシエ流 ロジックの魔力

2014年05月08日 週刊サッカーダイジェスト編集部

問題はニーズの有無。本来は監督の説明が必要だった。

これまでの会見では独自の“ロジック”を披露してきたトルシエ監督だが、最も説明が必要な大事なメンバー発表の場には姿を見せなかった。 (C) SOCCER DIGEST

 多くの名勝負が後世に語り継がれていくワールドカップだが、4年に一度の大舞台に立つ権利を得るための、チーム内での争いは激しく、時に本大会での記憶が霞むほどのドラマを生み出すこともある。
 
 ブラジルへ向かう23選手の発表が目前に迫った今、過去4大会の"運命の瞬間"を、週刊サッカーダイジェストの当時のレポートで振り返っていく。
 
 第2回は、自国開催の大会を目前に控え、日本全体が異様な盛り上がりを見せるなか、個性的なフランス人監督が我流を貫いた、2002年日韓大会だ。
 
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 5月17日、午後3時30分。メンバー発表は定刻通りに始まった。型どおりの挨拶を済ませた後、木之本興三・強化推進副本部長は緊張した面持ちで、しかし明朗な言葉で、23人のメンバーを読みあげていった。
 
 秋田豊の名前が出たところで会場に低いどよめきが起こる。リストがポジションごとに生年月日の順で記載されていることはすぐに分かった。だから、選手本人や、その年齢を知る人間なら、誰が選ばれ、誰が外れたのか、刻々と知ることができただろう。
 
 海外組のごく一部の選手を除き、選出されたメンバーは所属クラブの仕切りの下で、記者会見を開いた。選手たちはそれぞれ「うれしい」「光栄」と素直な思いを短い言葉の中に表現している。安堵や喜びを噛みしめつつ、気持ちを新たにしたはずである。
 
 発表されたメンバーリストには、妥当な顔ぶれのなかに驚きの要素も盛り込まれていた。なかでも、中山雅史、秋田のベテランふたりは先の欧州遠征に帯同しておらず、可能性は薄いと見られていただけに意外である。ただ、前回大会を経験しているふたりの力をプラス材料にすることは可能だろう。
 
 一方で、ふたり以上に当落の行方が注目されていた中村俊輔や名波浩、高原直泰といった面々がメンバーから漏れた。とりわけ、ここ最近のテストマッチで結果を残していた中村のリスト漏れは、少なからず議論を呼んでいる。
 
 さて、このメンバー発表においてケチがついたのは、その場にフィリップ・トルシエ日本代表監督がいなかったことである。会見の席では当初の予定が変更されて質疑応答が行われたものの、結論を出した人間が不在では何の意味もなかった。
 
 トルシエ監督はそんな発表形式について「世界のスタンダード」と言い切ったが、列強国とは違い、日本には選考の説明を求める巨大なニーズがある。それらの人々に日本代表が支えられているとすれば、詳しい説明のなかった今回のメンバー発表は、やはり配慮に欠けるものだったと言えよう。
 

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