【小宮良之の日本サッカー兵法書】守備を進化させるのは攻撃への対応、機能させるのは攻撃の姿勢

2017年10月29日 小宮良之

各チームが目指す守備の「要塞化」

 近年、守備戦術は革新的に変化を遂げたといわれる。大別すると、「プレッシング」と「リトリート」で、守備は存在している。
 
 プレッシング。
 
 それは、前線から相手選手にプレッシャーを掛け、ボールの出どころを潰し、自陣に入らせない。90年代には前衛的だった守備戦術だが、今や世界中で一般的になっている。
 
 プレッシングからショートカウンターをひとつのパッケージにするなど、攻撃戦術にも結び付いた。今や、プレッシャーの角度やタイミング、連係などもトレーニングされるようになった。
 
 リトリート。
 
 それは、自陣に引きこもって陣形を作り、相手を迎え撃つかたちを指している。昔は、「バスを置く」という表現もされた。ゴール前に何台ものバスを置いて、バリケード化させることで防御する、というイメージだろうか。
 
 いずれにせよ、相手の攻撃を分断し、防御力を高めることに、指導者は常に思考を凝らしてきたのだ。
 
 守備を「要塞化」するのは、軍事的な発想に近いところもある。
 
 例えば、昨今は4-1-4-1というシステムが、オプションとして使われるところが増えたが、4バックの前の「1」のMFは、まさに要塞化の鍵を担っている。
 
 相手の攻撃陣は、しばしばバックラインの前で自由を得ることを目的に、駆け引きを仕掛けてくる。そこで守る側は、バックラインの前にもうひとりのDFを置いて、それを潰す役目を与えたのである。
 
 日本の戦国時代の城には、門の外に「外枡形門」と呼ばれる"殲滅装置"を配したものが少なくない。門をくぐり抜けてきたものを枡形の敷地に誘い込み、三方から銃や弓で狙い撃ちにする。ひとつの門を破られても、もうひとつの門との間で敵を防ぎ、撃退する格好だ。
 
 欧州王者のレアル・マドリーは、カゼミーロをもうひとりのDFとしてバックラインの前に置き、守備を安定させることに成功している。一番危険な中央を強化することで守備が落ち着いたことにより、彼らのカウンター攻撃の破壊力は飛躍的に増したのである。

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