【小宮良之の日本サッカー兵法書】“健全な組織”でのみ強さは育まれる。では“健全さ”とは何か?

2017年10月06日 小宮良之

「この人は自分を良い選手にしてくれる」

戦術マニアと呼ばれ、練習の厳しさで有名な名将だが、その下地には真摯に人を向き合う姿勢がある。写真は手前がビエルサ監督で、広報はボニーニ・コーチ。 (C) Getty Images

 名将とは、いかなるものだろうか?
 
「マルセロは臆病なところがあったが、自分の決断に対しては、全くブレなかった」
 
 アルゼンチンの名将として誉れ高い、マルセロ・ビエルサ(現リール監督)と21年も連れ添ったフィジカルトレーナーのルイス・ボニーニは、そう振り返っている。ボニーニは現在、ビエルサと袂を分かち、ガン闘病生活を送っている。
 
「マルセロは、我々コーチングスタッフと積極的にディスカッションをした。システムや起用法などの議論に関しては、とことんオープンだった。しかし、決断するのは全て、監督である彼だったよ」
 
 このように語っていたボニーニはまた、コーチの役割を「物流」にも例えている。監督が決断した戦い方を、実際に選手や他のスタッフまで運べる(伝えられる)か。意思の疎通を全てに機能させ、誤解や反発を減らし、意志を行き渡らせるのだ。
 
 そこで監督には、コーチングスタッフや選手を納得させる「求心力(カリスマ)」が必要になるという。その意思が伝達されなかったら、どんなに立派な戦術も機能しない。決断力とコミュニケーション能力が、監督の基本なのだろう。
 
「マルセロは常に、選手たちに監督として寄り添う。どこまでも真摯に、選手を理解しようとしたし、そのプレーの質を高めるために最善を尽くしていた」
 
「その関係を築くなかで、選手たちはマルセロをリスペクトするようになっていった。むしろ、選手のほうがマルセロに助言を求めた。『この人は自分を良い選手にしてくれる』との確信を得られたからだろう。その関係にこそ、『名将とはなんぞや?』という疑問への答えがあると私は考えている」
 
 ボニーニはそう語った。

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