【番記者通信】9年ぶりのタイトルを目指すヴェンゲルのジレンマ|アーセナル

2014年04月17日 ジェレミー・ウィルソン

ファビアンスキか、シュチェスニーか――。

 ウィガンとのFAカップ準決勝(4月12日)は、PK戦の末に勝利した。決勝進出の立役者は、PKを2本止めた守護神のルカシュ・ファビアスキだ。ヴォイチェフ・シュチェスニーの控えとしてプレミアリーグではベンチを温め続けているが、FAカップはチームの初戦となった3回戦から全5試合に出場。準決勝でも最高のパフォーマンスを披露した。アーセン・ヴェンゲル監督も、
「ルカシュは素晴らしいGK。今日の試合でもそれを証明してくれた。彼のセーブで、我々は楽になった」
 と称賛を惜しまない。

 同時に、フランス人指揮官はジレンマを抱えた。

 ハルと対戦する5月17日のFAカップ決勝で、どちらのGKを起用すべきか。正守護神のシュチェスニーか、これまでどおりファビアスキにゴールマウスを託すのか。8シーズン無冠という不名誉な状況にピリオドを打つべく、この決勝は「マスト・ウィン(必勝)」の一戦となる。ヴェンゲルはどのような判断を下すのか。

 過去を振り返ると、2001-02シーズンに似たような事例があった。

 ミドルスブラを下した準決勝まで堅守を見せたリチャード・ライトか、ファースチョイスのデビッド・シーマンか。チェルシーとの決勝にはどちらを起用すべきか、ヴェンゲルの判断に注目が集まった。この時はシーマンがゴールマウスに立ち、ライトは控えに回った。シーマンを含めたベストメンバーで臨んだアーセナルはチェルシーを零封し、2-0でFAカップを制覇した。

 もっとも、今回は少しばかり事情が複雑だ。ファビアンスキとの契約は、今シーズン限りで満了する。出番が少ないことに不満を抱くファビアンスキは、本稿執筆時点で契約更新のオファーを拒否し、退団が決定的な情勢にある。残留を望んでいるヴェンゲルは、「情」では彼を起用したいはずだ。

 FAカップのタイトルと天秤にかければ、おのずと答は出るだろう。シーマンを起用した02年のファイナルのように、正GKのシュチェスニーを起用し、ベストメンバーで勝利をめざすべきだ。

 無冠時代に終止符を打つ。これこそが、今シーズンのアーセナルに課せられた至上命題なのだから。

【記者】
Jeremy WILSON|Daily Telegraph
ジェレミー・ウィルソン/デイリー・テレグラフ
英高級紙『デイリー・テレグラフ』でロンドン地域を担当し、アーセナルに精通。チェルシーとイングランド代表も追いかけるやり手で、『サンデー・タイムズ』紙や『ガーディアン』紙にも寄稿する。

【翻訳】
田嶋康輔
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