【小宮良之の日本サッカー兵法書】神がかり的なプレーも奇跡の勝利も、結局のところ要因はひとつ

2017年07月27日 小宮良之

奇跡が起こるのに規則性はない

ゴールライン際でのプレーの前には、タッチラインでも囲まれながら、これを突破していたベンゼマ。前半16分までに2点を奪い、合計スコアでタイとするのにあと1点と迫っていたA・マドリーの勢いを、このワンプレーで削いでみせた。 (C) Getty Images

 どうやったら、そうなってしまったのか?
 
 論理的に説明できないプレーがある。
 
「彼自身、あそこからどう出られたか、説明がつかないだろう」
 
 レアル・マドリーのジネディーヌ・ジダン監督は、昨シーズンのチャンピオンズ・リーグ(CL)準決勝・第2レグのアトレティコ・マドリー戦で、前半42分にカリム・ベンゼマが見せたプレーについてこう語っている。

 その時、左サイドでスローインを受けたベンゼマは、ゴールラインまでボールを持ち込みながら、3人のDFに囲まれていた。ボールを失うか、自ら外に出してしまうか、良くても相手にぶつけてCKを奪うという選択肢しかなかった場面だろう。
 
 しかし、ベンゼマはわずかな隙を突き、ゴールラインの内側でぎりぎりのコントロールに成功し、敵の3選手を置き去りにして折り返しのパス。これをトニ・クロースがシュートし、はね返ったところをイスコが詰めて貴重なアウェーゴールを奪った。
 
 フットボールでは時に、奇跡にすら映るプレーが生まれる。それは偶発性を伴い、規則性はない。奇跡を起こせる技術や閃き、あるいはその度胸があるか――。それは奇跡的プレーの生まれる確率を高めるものではあるが、絶対的ではないだろう。
 
 日本代表では、2011年アジアカップ決勝(対オーストラリア)における延長戦(109分)での李忠成のボレーシュートが、そのひとつに挙げられるかもしれない。李はあの時、ほとんど感覚的にボレーで叩いていた。あのシーンを再現するには、困難を極めるだろう。
 
 また、何気ないプレーが、チームとして奇跡を創り出すこともある。
 
「フットボールには"モーメント"がある。瞬間というのかな。論理的には説明がつかない。例えば、ミラン相手に4点を奪った試合。それがどうやって起きたか、説明なんかできないんだよ」
 
 ファン・カルロス・バレロンは証言している。
 
 03-04シーズンのCL準々決勝・第2レグ、デポルティボは当時最強を誇ったミラン(前年度王者)を4-0で下し、勝ち上がった。第1レグを1-4で落としていただけに、この逆転劇は「リアソルの奇跡」ともいわれた。

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