【コラム】エバートンが示した「忠誠契約」に共感。冷徹な選手売買が続くプレミアでは異例だ

2017年05月09日 山中忍

二重骨折の悲劇見舞われた夜に会長自らが電話を。

献身的なプレースタイルがエバトニアン(熱狂的なエバートン・ファン)からも愛されているコールマン(23番)。完全復活を果たすことを祈るばかりだ。 (C) Getty Images

 5月ともなると、英国では全国紙にも移籍の噂を扱う記事が増え始める。その中で異彩を放っていたのが、去る5月5日にシェイマス・コールマンとエバートンが新たに5年契約を結んだことを伝える報道だ。
 
 28歳とキャリアのピークともいえる年齢で、現行契約が残り2年を切れば、アイルランド代表SBをエバートンが引き留めにかかるのは当然かもしれない。しかし、コールマンは、3月のワールドカップ予選で右脚を二重骨折。手術後の自宅療養を経て、4月末からリハビリでクラブの練習場に再び通い始めたばかりだった。
 
 代表戦前に契約内容で合意に達してはいた。だが、年内の戦線復帰はもちろん、キャリア自体が危ぶまれる利き足の大怪我を負う前と現在では、クラブが査定したコールマンの価値に変化があっても不思議ではない。
 
 ところがエバートンは、怪我をした夜にビル・ケンライト会長自身が、「心配するな。新契約の話は生きたままだ」とコールマン本人に伝えていたように、選手に対して「忠誠」であることの価値を重んじたのだ。
 
 個人的には、「よくぞ重んじてくれた」と言いたい。筆者が事故で左足の脛骨と腓骨を折ったのは10年前だが、それでも倒れたまま折れた足を手で押さえるコールマンの姿には、同じようにして救急車を待っていた時の痛みと震えが身体に蘇ってくるようだった。
 
 病院で手術を待つ間に、とんでもない方を向いている足を「まずは適正な角度に戻します」と看護師に言われた直後、モルヒネを打たれていても痛みに声を上げて気を失った自分を思い出した。
 
 無論、プレミアリーガーのコールマンは、対応の迅速さから手厚いケアまで庶民の場合とは全てが異次元だろう。だとしても、痛みと不安がわかる身として同情せずにはいられなかった。
 
 それだけにコールマンが、「心の支えになってくれた。僕にとって特別なクラブ」と実際に新契約を交わしたと知って、筆者も心が晴れる思いだった。

次ページクラブに忠誠心を示しても「軽々しい」と非難される昨今のプレミアで…。

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