【小宮良之の日本サッカー兵法書】ネガティブをポジティブへ――A・マドリーの成功例に学べ!

2017年05月05日 小宮良之

重圧に屈してきたかつてのA・マドリー…闘将がそれを変えた!

根性論だけの指導者ではないが、精神力の強さが彼のスタイルの土台であるのは確か。シメオネ率いるチームは安定した強さを手に入れただけでなく、見る者の琴線に触れる戦いを披露する。 (C) Getty Images

 アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督が、世界の名将のひとりに数えられるのはどうしてか?
 
 それは、シメオネがアトレティコというチームを変革させたからだろう。生まれ変わらせた――そう言っても過言ではない。
 
 アトレティコはスペイン国内で、レアル・マドリー、バルセロナに次ぐ、3、4番手のクラブだった。しかし調子の波が激しいチームで、成績も内容も一定せず、負のスパイラルに入ると、2部リーグに転落したこともある。
 
「ビセンテ・カルデロン(ホームスタジアム)に集まるファンの熱気。それは世界に誇れる。ただし、時にヒートアップし、自らを焦がしてしまう」
 
 そう言われて久しかった。クラブがファンの強い思いを受け止めきれず、重圧に感じてしまうところがあったのだ。
 
 シメオネはかつて、選手としてクラブ史上初の「ドブレテ(リーガ・エスパニョーラ、コパ・デル・レイの二冠)」を達成していただけに、クラブ事情を弁えていた。
 
 しかし、彼は恐れなかった。監督として着任した彼は、周囲の熱気を抑えるどころか、それを煽ったのである(実際にベンチ前で、彼自身が声援を煽る場面は今でも見られる)。彼は選手たちを戦う集団に換え、"戦えない懦弱(だじゃく)さ"を取り除いた。
 
 勝利だけを正義とするアルゼンチン人指揮官は、理屈っぽさを嫌う。
 
「私が譲れないのは、選手のパッションだ。これはアトレティコの選手にとって、生きることと同義かもしれない。ボールプレーはどこにでもあるが、我々のようにフットボールを戦えるチームは少ない」
 
 そう語るシメオネは、選手の闘争本能を目覚めさせ、極限まで血をたぎらせる。死中に活を求めよ、と促す。倒れそうになったところで再び肉体を動かし、道理を超えた戦いができるように仕向けた。
 
「そんなに走れないよ。ポゼッションのほうが、効率が良い」
 
 シメオネは、そうした言い分に耳を貸さなかった。献身、責務……。まずは対面する相手に負けない、逃げない。そういう局面の戦いの流儀を、全体の勝利に結び付けた。

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