【小宮良之の日本サッカー兵法書】監督は戦術のディテールを授け、選手はそれを臨機応変に活用せよ

2017年04月27日 小宮良之

相手や状況に合わせて守備の手段を的確に変えていったユーベ

巧みな上下動でバルサの攻撃をいなし、絞り込んで確実に奪う。ユーベの守備は、個々の強さ、組織力だけでなく、状況判断力においても群を抜いている。 (C) Getty Images

「もっと前からプレスをかけるべきだった」
 
 Jリーグの試合後の監督記者会見ではしばしば、そんな反省の弁を聞くことがある。
 
 試合のプランとして、選手たちには「前からの激しいプレス」を言い渡していたという。その約束事が果たせなかったから、あるいは十分でなかったから、試合をモノにすることができなかった、というのだ。
 
 しかしながら、プレッシングは手段のひとつではあるかも知れないが、目的そのものではない。プレスがうまくはまらないなら、勝利という目的のために臨機応変に戦うべきなのである。
 
 そもそも、「前から行け」という号令は、試合の"戦略"としては適当ではない。プロのフットボールにおいて、試合を通じてプレスにかけ続けるには、相応の練度が必要になる。
 
 結論として、90分ものあいだ、これを続けるのは難しく、相手と自分たちのレベル、状況や時間などによって、戦い方を変化させなければならない。
 
 例えば、チャンピオンズ・リーグ準々決勝の第2レグで、ユベントスはバルセロナ相手に立ち上がりの10分間、強烈なプレッシングをかけている。前線からのプレスでバルサの勢いを拉ぐ(ひしぐ)というのが、彼らの戦術だった。
 
 しかし10分を過ぎると、プレッシングに固執していない。リトリートし、ラインをコントロールしながら、DF、MF、FWのスリーラインが分厚い守備の層を成し、バルサの猛攻を退けていった。
 
 そして前半35分を過ぎると、相手の勢いが増してきたところでもう一度、激しいプレスをかけている。しかし、これがはまり切らないと、再びリトリートに切り替え、堂々と守り抜いた。
 
 後半も、ユーベの守備は老練を極めた。機を見てのカウンターは鋭く、しばしばバルサを狼狽させた。それによって、相手の攻撃の勢いを打ち消したのだ。
 
「前からのプレッシング」
 
 それは、勝利の手段=戦術のひとつに過ぎない。勝負全体のマネジメント=戦略を達成するには、戦術においてもっとディテールを掘り下げる必要があるだろう。

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