【小宮良之の日本サッカー兵法書】ポゼッションで勝ちたいなら、時にポゼッションを放棄せよ!

2017年04月21日 小宮良之

強度の高いプレッシングで積極的に迫ってくる敵を打ち破るには?

どんなタイプの相手でも打ち破ることができたバルサでも、ポゼッション一辺倒では早々に綻びを見せていたことだろう。写真は2010-11シーズンのチャンピオンズ・リーグ優勝時。 (C) Getty Images

<ポゼッション型のチームが、試合立ち上がりから強烈なプレッシングを受け、どうにも挽回できない>
 
 それは、しばしば見られる展開のひとつである。
 
 ビルドアップで必死に繋ごうとするものの、バックラインからフタをされ、苦し紛れにパスを送ったところをインターセプトされる。どうにか攻撃を防いで、再び繋ごうとするのだが、やはり敵陣までボールを運ぶことができない。
 
 攻めては奪われ、を繰り返しているうちに、ショートカウンターを鮮やかに決められて失点。その後はリズムを失い、なし崩しに試合のペースを失う――。
 
 Jリーグでは、風間八宏監督が率いた川崎フロンターレ、吉田達磨監督が率いた時の柏レイソル、欧州ではエウセビオ・サクリスタン監督のレアル・ソシエダ、パコ・ヘメスが指揮した時のラージョ・バジェカーノに似た傾向がある。
 
 武器であるはずのポゼッションが弱みに……。「後の先を取られる」形だろうか。
 
 では、強度の高いプレッシングでアグレッシブに迫ってくる相手を打ち破るには、いかにするべきか?
 
 北風と太陽のようなものか。
 
「Repliegue Intensivo(集中的撤退陣)」
 
 スペインの指導者養成では、対処のひとつとして教えられる。
 
 相手の覇気を見抜き、一旦は自陣まで引き、ブロックを敷いて、無理に繋がない。相手の攻撃を受け止める時間を作り、仕掛ける戦術策をいなしていくということだ。
 
 アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督は、この「Repliegue Intensivo」の名手。試合の流れで相手の呼吸を見極め、奮起してボールを追ってくる相手の気を逸らし、まずは足を使わせ、陣形が乱れたところで、一気に攻撃的陣形に転じる。
 
 もっとも、ボールを繋ぎ、運ぶというように、攻撃的にデザインされたチームの選手たちは、受け身の戦いへの変化に躊躇いがある。選手としてのキャラクターも、守備で相手を受け止めることに適さない場合が多い。
 
 しかしながら、世界中で繋ぎ切れるチームは、バルセロナ以外は存在しないだろう。そのバルサですら、アンドレス・イニエスタ、リオネル・メッシのふたりがいなかったら、それは成立しないのだ。

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