【小宮良之の日本サッカー兵法書】着実に進化中のハリルジャパンに必要なのは“幅”と“柔軟性”

2017年04月06日 小宮良之

目を見張る久保の台頭ぶり! 原口に続いての“ハリルの申し子”

久保(写真)の活躍など、ポジティブな材料があった3月のW杯予選。まだまだクリアすべき課題は多々あるが、代表チームとして前進していることは感じられた。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 3月28日に行なわれたロシア・ワールドカップ・アジア最終予選、日本はタイを4-0で下し、得失点差でグループリーグ首位に浮上。本大会出場の道が、ようやく拓けてきた。
 
 しかし、直近のUAE戦(23日に行なわれて2-0で勝利)、タイ戦と、チームの仕上がりについては「停滞」という評価が然るべきだろう。昨年10月のオーストラリア戦のほうが、戦術的な精度は明らかに高かった。
 
 もっとも、キャプテンのMF長谷部誠(フランクフルト)が不在のなか、完封勝利を収めたことは、上々の結果だったとも言える。
 
 そのなかで、リオ五輪世代のFW、久保裕也(ヘント)は目覚ましい台頭を見せている。
 
 UAE、タイ戦と連続ゴールを挙げたが、瞠目(どうもく)すべきは、タイ戦で先制点を演出した時のボールコントロールだろう。クロスを放つまでの一連の動きは、圧巻だった。原口元気(ヘルタ・ベルリン)に続いて、"ハリルの申し子"が誕生した感がある。
 
 では、現体制で世界の強豪と渡り合えるのか?
 
 戦術的な積み上げはあるし、ようやく若手も頭角を現わしつつあるが、積極的には肯(がえ)んじない。
 
「世界をイメージしたスカウティングやタクティクスの想定が必要になる」
 
 かつてアルベルト・ザッケローニ監督はそう語り、アジアでは無敵の盟主となり、コンフェデレーションズカップでは強豪相手に可能性を示したが、ブラジル・ワールドカップでは敗北している。
 
 現状に甘んじるべきではない。
 
 ヴァイッド・ハリルホジッチの戦いは、基本的にリアクションである。相手の攻撃が前提で、いかに受け身をとるか――。能動的なプレーをもっと積み上げるべきだが、それはさておき、ここまでのリアクション戦術を分析するだけでも、粗は見える。
 
 ハリル戦術では、攻撃の選手も守備での消耗が激しい。その証拠に、タイ戦で八面六臂だった久保も、後半は疲労から明らかに動きが落ちていた。原口も守備に追われる時間が長く、攻撃での余力が足りなかった。
 
 サイドFWはサイドを封鎖し、(侵入した)相手を挟んで潰し、逆にカウンターでは推進力を出さねばならない。トランジッション(攻守の切り替え)の起点となることが要求され、絶え間なく動き回って相手に挑む体力も求められる。

次ページ戦力を厚くしていく一方で、戦術の多様性も鍵になってくる。

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