ハリルの今野再評価は功か罪か――歴代の指揮官を悩ますボランチの選択

2017年03月29日 加部 究

結果的に「G大阪からヒントを得た」戦術は見事にフィット。

UAE戦で改めて自身の価値を示した今野。タイ戦は欠場となったが、指揮官の構想に入ったことは言うまでもないだろう。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、繰り返し本音を吐露しながらも、予測されるべき批判に対して防波堤も用意した。
 
「ネガティブなことをたくさん話してしまった。4-0の試合で、こういう発言をする監督は少ないだろう。確かに今日(タイ戦)は、UAE戦に比べてハイレベルな厳しさが足りなかった。しかし結果として合格点を出した選手は誉めてやるべきなんだ。賞賛と批判のバランスが傾き過ぎないようにして頂きたい」
 
 実際にUAEへの遠征から、帰国してホームでのタイ戦という流れは、チームにとって心身ともに難題が重なった。ホームで敗れているUAEとのアウェー戦が大きな山場になるだけに、完勝劇の後でタイ戦への切り替えは想像以上に難しかったはずだ。さらにスケジュール以上に指揮官の頭を悩ませたのが、キャプテン長谷部誠の離脱だった。
 
 長谷部の不在は、改めて日本サッカーの重要な課題を浮き彫りにした。長谷部は精神的な支柱であるだけではなく、チームの心臓部で攻守にバランスの取れたプレーを続けてきたからだ。プロ化以来順調な右肩上がりを辿ったかに見える日本サッカーだが、依然としてGK、センターバック、ボランチ、FWと、幹になるポジションのタレント不足は解消されていない。経験のいるポジションだけに代え難い。だから必然的に層が厚くならず、新陳代謝も進まない。こうした悪循環が続いている。
 
 苦境の中でハリルホジッチ監督は、最良の解決策を見つけて来た。だがそれは新しい発掘ではなく、かつてのイビツァ・オシム氏の言葉を借りれば「古い井戸」の再利用だった。アウェーのUAE戦で、指揮官はアンカーに山口蛍、その前方に香川真司と今野泰幸を配した。これは戦術的にも再利用で、2010年南アフリカ・ワールドカップでは、それまで光明が見い出せなかった岡田武史監督が、阿部勇樹をアンカーに置く4-3-3に戦術変更して、グループリーグ突破に成功している。
 
 結果的に「ガンバ大阪からヒントを得た」(ハリルホジッチ監督)という戦術は見事にフィットした。ただしもともと今野の能力には疑いがなく、逆に日本代表としては大きなブランクを作っていた今野を超える人材が育って来ていない現実を浮き彫りにした。

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