選ばれた宇佐美と外れた武藤――意外な選考の背景と彼らの決意

2017年03月22日 中野吉之伴

「成長できるよう努力して、クラブでも良い流れを」(宇佐美)

意外な選考ではあるが、両者の現状を見ると、その理由を見つけることができる。写真はブンデスリーガ第20節の直接対決時。この試合、武藤は70分から、武藤は90分からの交代出場に終わった。 (C) Getty Images

 誰にでも自分の理想を思い描き、それを口にすることはできる。だが、理想通りに状況・条件が整うことは、極めて稀だ。
 
 日本代表選考においても、そうだろう。所属チームでの出場機会と代表チーム入りの相互関係という観点から見ると、明確なようで曖昧なラインが存在することは否定できない。
 
 ブンデスリーガでプレーするふたりの攻撃的な選手、アウクスブルクの宇佐美貴史とマインツの武藤嘉紀。ここ最近の出場機会とプレー内容では似たような境遇の彼らだが、今回、ロシア・ワールドカップ予選を戦う日本代表に宇佐美は招集され、武藤には声がかからなかった。
 
 宇佐美は今シーズン、ここまで8試合で299分間の出場。まだ無得点だ。一方の武藤は11試合479分に出場して2得点。単純な数字の比較だと、武藤のほうが結果を出している。ここ最近の状況を比較しても、宇佐美が武藤を凌駕する何かを残せたわけではない。
 
 それだけに、「なぜ?」というキーワードが浮かび上がってくるのも当然かもしれない。
 
 代表チームとは、選抜された選手が集まるところだが、あくまでもチームだ。調子が良い選手を集めれば、自動的に全てがうまくいくというわけではない。他国の代表を見ても、着実な歩み、チームとしての積み重ねが好成績の礎となっている。
 
 試合には流れがあり、勢いだけでは勝てない難しさが、W杯予選にはある。だからこそ、そうした舞台での経験を持った選手の存在が欠かせない。
 
 ただ、試合をコントロールしようとするだけでは、相手を凌駕する怖さがなくなってしまう。だから武器が必要だ。そのひとりとして今回、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が指名したのが、宇佐美だったのだろう。
 
 宇佐美は、「複雑な気持ちはある」と認めた上で、「国のために戦えるとか、レベルの高い選手たちとともに行動できるというのは、常に良い刺激になります。短い時間ですけど、なるべく成長できるように努力して、またこっちに帰ってきて、良い流れをつけていきたい」と気持ちを高めていた。
 
 試合に出られない自分に満足しているわけがない。変わろうとしている。何とかしたい。腐っている暇や愚痴っている時間すらもったいない。どんなことでもポジティブに捉え、あがこうとしている。
 
 2月10日に行なわれたマインツ戦の後には、「僕自身はまだまだ、信頼されてないと思います。日頃の練習から信頼を勝ち取っていくしかない。(気持ちを)切らさずにやっていくなかで、粘り強く練習からアピールしていって、したたかに狙い続けていくしかない」と語っていた。
 
 独力で変化をつけられる、日本では稀有な存在。そんな宇佐美が見せる、必死な練習への取り組みぶりが、出場機会は少なくとも戦力になるという評価に繋がったのだろう。

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