退任要求が強まるヴェンゲル…「アーセナルのために」身を引く英断を!

2017年02月21日 山中忍

格下相手のカップ戦でも強者の余裕は見られず……。

その手腕に限界が見え始めたヴェンゲル。アーセナルへの愛情は誰よりも持っているだろうが、浮上の兆しが見えないまま心中という形は双方にとって最良とは呼べないだろう。 (C) Getty Images

 舞台はまだ16強、しかも相手はノンリーグ(セミプロ)のサットンだった。それでも巷では、2月20日のFAカップ戦を前に「最強メンバーで臨むべきだ」と言われていた。それほど、アーセン・ヴェンゲルのアーセナルは追い詰められた状況にある。
 
 首位のチェルシーと勝点10差をつけられ、プレミアリーグでは今シーズンもトップ4争い止まりが濃厚。チャンピオンズ・リーグ(CL)のベスト16第1戦では、昨シーズンに続いてバイエルンに大量5失点で敗れ、チームには「腰抜け」(『デイリー・メール』紙)、指揮官には「バイバイ、アーセン」(『サン』紙)といった辛辣な見出しが打たれた。
 
「限界」が囁かれるヴェンゲル体制終焉の噂は過去にもあった。だが、これまでとは違い、「退任」を求める一部のファンを「非礼」と窘める国内メディアは乏しく、むしろ「潮時」として、就任21年目の67歳に退任を即す声が強まっている。
 
 とはいえ、"ヴェンゲル・ファン"が揃うアーセナル経営陣は続投を望むだろう。肝心の当人も「来シーズンも監督であり続ける」と断言し、去就は「4月頃まで」の決断を示唆している。
 
 指揮を執る意欲に加え、この1~2か月で今シーズンの立て直しができると、意識が前向きなのは頼もしいかぎり。しかし、問題は続投がアーセナルにとって前向きなものかどうかだ。
 
 この観点から、筆者は「潮時」に同感だ。前回の契約最終年に身を引くのではないかとも思っていた。その3年前からチームは前進しただろうか?
 
 プレミアリーグでの過去2シーズンはいずれもトップ4入りに留まり、2003-04シーズン以来のリーグ優勝には迫れていない。さらにCLでは16強の壁を越えられずにいる。
 
 確実に「進んだ」と言えるのは、時代の変化を求めるようになったファンと、ピッチ上で孤軍奮闘するアレクシス・サンチェスが苛立つ傾向だけのようにさえ思える。
 
 そのサンチェスは、サットン戦でも「保険」としてベンチに入り、74分からピッチにも立った。投入前に、ルーカス・ペレスとセオ・ウォルコットの得点で勝利は見えていたが、目立ったのは格上の余裕ではなく、ヴェンゲルも「予想以上」と認めた格下の奮闘だった。
 
 相手はセミプロクラブ。勝てば、「当たり前」の一言で片付けられるカードでもあり、ベンチにもいなかったメスト・エジルをはじめ、チームの自信回復に繋がったかは懐疑的だ。その証拠に試合後、「やるべきことはやった」と語る指揮官の表情も険しいままだった。

次ページアーセナルが進歩するためにも……。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事