【識者の視点】W杯出場枠の大幅拡大でも日本が連続出場を維持する保証はない理由

2017年01月16日 加部 究

出場国が増えた昨年のユーロでは今まで蚊帳の外だった国に元気が漲った。

参加国枠が増えたことで、日本代表のワールドカップ予選を巡る環境も変化が起きるのだろうか。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 FIFA(国際サッカー連盟)は1月10日、2026年のワールドカップから参加国枠を現行の32チームから48チームに拡大することを決定した。
 
 一気に16チームが増える大幅な拡大によって、本大会や出場を争うワールドカップ予選はどのような変貌を遂げるのだろうか。過去7度のワールドカップ取材の実績を持つスポーツライターの加部究氏が展望する。
 
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 競技や大会の普及発展を考えれば、晴れ舞台の間口は広げる方が得策だ。
 
 例えばかつては全国高校選手権にも、地域予選があった。もちろん発展の最大の要因は、1976年度に開催地を首都圏に移転したことだが、1983年度から各都道府県すべての代表校が参加することになり、一層全国の隅々にまで大会熱が浸透した。Jリーグの創設の影響も大きいが、地域差は徐々に解消され、逆に御三家と呼ばれた「静岡、埼玉、広島」や東京の高校が、なかなか勝てなくなった。九州勢が台頭し、東北、関西、北陸などの学校が主役になっても、決勝戦になれば国立も埼玉スタジアムも埋まっている。
 
 ユーロも昨年のフランス大会からは、参加国枠が24カ国になった。1968年スタート時点では集中方式の形さえなく、1976年にベスト4が旧ユーゴスラビアに集結。ようやく4年後の1980年に、イタリアで8か国による決勝大会が開催された。だが現在はUEFA(欧州連盟)加盟が「59」なので、実に約半分が本大会進出を確保できている。当然1980年イタリア大会の方が、2016年フランス大会より密度は濃かった。しかしイタリアは閑散としていて、フランスではどの会場も盛況だった。
 
 ワールドカップに話を移せば、2002年日韓大会までは前回優勝国に次回の出場権が与えられ、4年後にはディフェンディング・チャンピオンとして開幕戦に登場していた。しかし1990年イタリア大会でドイツを指揮して優勝し、「皇帝」の名で親しまれるフランツ・ベッケンバウアーは、この制度に異論を唱えた。
 
「チームは厳しい予選を通して強化されていくものだ」
 
 その後、ベッケンバウアーからは、こんな発言も出ている。
「あまりに力の離れた相手と試合をしても強化にならない」
 
 さて現在のユーロや将来のワールドカップの予選の組み合わせや難易度を見て、「皇帝」はどう思うだろうか。
 
 昨年のユーロ予選でも、オランダ(本大会に進めず)のような番狂わせはあった。だが概して強豪国にとって刺激は低下した。ただしそれは強豪国側からの視点で、反面今まで蚊帳の外だった国には元気が漲った。象徴的だったのが、アイスランドやウェールズの躍進である。
 
 そもそもジョゼ・モウリーニョが指摘するように、サッカーの発展を牽引するのはクラブシーンだ。ナショナルチームが競い合うワールドカップやユーロは、「真夏の世の夢」のような束の間の祭典で、十分な準備期間も確保できないから番狂わせが起きやすい。むしろビッグクラブに所属する選手ほどシーズン中は疲弊するので、強豪国にとってはハンディ戦になる。そしてより多くの大衆は、おそらく一部強豪国の寡占状態より、可能性のパイが広がる激戦に興味をそそられる。
 

次ページ拡大は自由競争の促進を意味する。出場枠増で予選の刺激がなくなるという見方は短絡的。

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