【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の百零四「日本サッカーは“左利き”のメリットにもっと注目すべきだ」

2017年01月06日 小宮良之

欧州や南米では「少し劣っている程度であれば左利きを選ぶ」

マラドーナ(写真)のような魔法の技術、ロベカル・カルロスの強烈なキックと、レフティーは稀少な才能を連想させるが、実際に戦術上でも大きな武器となる。 (C) Getty Images

  左利きの重要性。
 
 欧州や南米のフットボール界で重視されるものであり、それは日本人が考える以上だろう。
 
「少し劣っている程度であれば、間違いなく左利きを選ぶ」
 
 そう語る指導者も珍しくはない。
 
 では、チームにとって左利きが入るアドバンテージはどこにあるのか?
 
 まず、ボール軌道に右巻きが生まれる。左利きの選手は、身体を開かずに右方向にパスを出せる(とりわけ、ダイレクトでの展開のパスは顕著)。これによって、右サイドの攻撃を有効に使えるようになる。
 
 右利きの選手ばかりだとパスは左に偏り、左巻きになりがち。ボールの軌道が単調になるし、有効にピッチの幅を使えない。
 
 なかでも、左SBが右利きであることは、欧州や南米では例外的と言えるだろう。
 
 左利きは左足でボールを扱うことで、自分のゴールよりも遠い位置でコントロールできる。万が一、相手にボールをかっさらわれたとしても、そのままゴールに向かわれてしまう危険性が低い。
 
 また攻撃においても、タッチラインぎりぎりまで大きくピッチを使えることで、相手を広げて、揺さぶれる。これは味方にとって優位で、スペースを見付けられるのだ。
 
 例えば、ヨーロッパリーグ3連覇を果たしたセビージャは、両ワイドの選手が万力で押し潰すような攻撃を仕掛ける。
 
 左ワイドの選手が左足で右外までボールを通し、右ワイドからは右利きの選手が外から中に入って、得点を狙う。サイドチェンジによって、相手の守備陣形を撓ませるのだ。
 
 チーム編成としては、左SB、左ボランチ(MF)は左利きが基本になるだろう。他に左CB、アタッカーもレフティーだったらベター。チャンピオンズ・リーグ(CL)で勝ち進むようなクラブは、レフティーを要所に配している。むしろ、そうでないクラブを見付ける方が難しいだろう。
 
 昨シーズン、CL決勝に進んだアトレティコ・マドリーは、ディエゴ・シメオネ監督の下でエモーショナルな戦いをモットーにしているが、左利きのロジックは決して外していない。
 
 主力となっている左SBフィリペ・ルイス、MFサウール・ニゲス、FWアントワーヌ・グリエーズマンは、いずれもレフティーである(左CBのバックアッパー、リュカ・エルナンデスなども)。
 
 また、こうしたチーム編成的な特長とは別に、左利きを配することには、まさに"左利きだけが与える利点"がある。

次ページ右利きでスタメンを固め、左にボールを集める日本サッカー。

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