【蹴球日本を考える】本田ではなく清武がオマーン戦を掌握したことの意味

2016年11月12日 熊崎敬

時間の経過とともに、背番号13を中心にコンビネーションが広がった。

PKによる1得点とふたつのアシストを決めた清武が、オマーン戦で日本代表を力強く牽引した。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 対戦相手の実力に物足りなさは残ったが、それでもオマーン戦は意味のある試合となった。
 
 2ゴールを決めた大迫を筆頭に、代表デビューを飾った永木、代表初ゴールを決めた小林らが持ち味を発揮したからだ。顔ぶれが固まり、長く停滞感の漂っていた代表チームに、ようやく競争の原理が生まれつつある。
 
 このゲームで私がもっとも感心したのが、トップ下の清武だった。1PK・2アシストと3得点に絡んだように、存在感は絶大なものがあった。
 
 この試合の清武は、落ち着いていて、周りが見えており、ミスが少なく、非常に丁寧だった。つまり完璧に近い。
 
 多くの敵に囲まれた場面でもほとんど慌てる様子はなく、味方の欲しいところに優しいパスを配球していた。
 その落ち着きは、日本の中で群を抜いていた。ひとりだけ、ゆったりとプレーしているように見えた。上手い選手はゆったりとして見えるものだ。
 
 清武のような存在は、サッカーに限らず仕事でも重宝される。落ち着きがあり、周りが見えていて、丁寧に仕事ができる人は周りにいい影響を与えるものだ。一緒に仕事をする仲間の力を引き出してくれる。
 
 実際にオマーン戦の日本がそうだった。
 
 初めてのラインナップのせいか、立ち上がりはパスミスが目立った。だが清武のタッチが増えるにつれて、テンポよくパスが回り始めた。時間の経過とともに、背番号13を中心にコンビネーションが広がっていく。
 
 清武が落ち着いてプレーできるのは、ハイレベルなスペインに身を置いているからだ。スペインと比べたらオマーンのプレッシャーなど取るに足らないものだろう。
 
 本田や香川がそうであるように、清武もまた所属クラブで満足に出場機会を得られていない。試合に出ていない海外組が代表チームでレギュラーを張ることには賛否両論あるが、この日のプレーを見るとスペインでの経験が無駄ではないことが分かる。
 
 オマーン戦でチームを掌握したのは、本田ではなく清武だった。
 いつまでも"本田と香川"に頼っているわけにはいかない。日本は変わらなければいけない。その答えが清武かもしれない。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
 
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