「常にゴールを狙う」久保裕也こそ、日本代表にとって一番の“特効薬”だ

2016年11月10日 中野吉之伴

常に冷静で感情の起伏を感じさせないが、実はどん欲で、強気。

今シーズンここまで、スイス・スーパーリーグでは14試合5得点、欧州カップを含めると22試合7得点の成績を残している。写真はCLプレーオフのボルシアMG戦。 (C) Getty Images

 久保裕也が欧州に衝撃をもたらしたのは、4か月前のことだった。
 
 所属クラブのヤングボーイズがチャンピオンズ・リーグ(CL)の予選3回戦で、本選の常連であるシャフタール・ドネツク相手に、センセーショナルな勝ち残りを決めたのだ。
 
 初戦となったアウェーマッチを0-2で落としながらも、ホームでの第2レグを久保の2ゴールで2戦合計イーブンに持ち込み、PK戦の末に劇的な勝利。ファンは狂わんばかりに歓喜の歌を熱唱し、久保の名前は途切れることなく叫ばれ続けた。
 
 本来、久保はそこにいるはずのない選手だった。当初参加予定でクラブからの約束も取り付けていたリオデジャネイロ・オリンピックの舞台に立っているはずだったからである。
 
 だが、出発寸前に主力FWアレクサンデル・ゲルントが負傷離脱してしまったことを受け、クラブは久保の五輪参加を土壇場で拒否。不可能を可能にするためには、あらゆる手を講じる必要があったのだ。
 
 日本五輪代表にとっては、間違いなく大きな、大きな痛手。本人にとっても、すぐに納得できるものではなかったはずだ。だが、久保は立ち止まらなかった。
 
 スイスのオンラインサイト『ブルーウィン』が「クボは五輪へのフラストレーションを感じさせずに、クラブを彼の力で勝利へと導いた」と書いていたが、苦しい境遇さえも自身を成長させるための場として受け入れ、答えをピッチに求め続けた。
 
 チームメイトのスティーブ・フォン・ベルゲンは「ユウヤはユウヤ。ポジティブでもネガティブでも、彼は感情を露にしたりはしない」と語っていたことがある。
 
 確かにピッチ上での様子を観察していると、常に冷静で感情の起伏を感じさせない。だが、それはあくまでも表立ってのことだ。
 
 どこまでもどん欲で、強気――。
 
 結果として2戦とも完敗で終わったボルシアMGとのCLプレーオフ後でも、「全然やれないという相手でもない」「(アウェーでも)3点取れないことはないと思う」「普通にやれる気はしていた」と、全く臆すことなく話していた。
 
 9月21日のファドゥーツ戦から10月16日のルガーノ戦まで、チームは公式戦5試合連続未勝利の時期があった。こんな時、久しぶりの勝利を挙げれば、とりあえずホッとするのが普通ではないだろうか。
 
 だが、10月20日のヨーロッパリーグ・グループステージ、APOEL戦で6試合ぶりとなる勝利の後でも、もちろんチームの勝利を喜びながらも、久保は簡単には満足しなかった。
 
「いや、俺的にはまだ(トンネルは)長いです。点が取れてないんで」

次ページどこからでもゴールを狙ってくる、相手にとって最も嫌な存在。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事