【U-19優勝の舞台裏】難易度MAXの途中投入から劣勢の日本を救ったクレバーな観察眼

2016年11月02日 安藤隆人

大会随一の強力攻撃陣の猛攻に晒された日本。投入されたのは高3の原輝綺だった。

75分から途中出場した原はボランチで獅子奮迅の働き。相手1トップと3シャドーへの対応で抜群の守備力を示した。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 緊迫した場面での投入だった。

【写真】U-19日本、アジア初制覇!
 
 0-0で迎えた70分過ぎ、ウォーミングアップをしていたボランチ原輝綺の名前が呼ばれた。「絶対に失点が許されない展開で、本当に緊張した」
 
 初のアジアチャンピオンが懸かった決勝戦という舞台。相手はサウジアラビアという今大会随一の攻撃陣を要する強敵だ。そうしたなかで劣勢を強いられた状況での投入は、誰もがこれ以上ない難しさを感じるものだろう。
 
 75分にMF市丸瑞希に代わって投入された原の任務は、サウジアラビアの3トップを軸とした強力アタッカー陣に対して、プレスバックを徹底することと、セカンドボールを拾うこと。原が投入されるまで、日本はセカンドボールで相手に優位に立たれ、これまで5試合で16得点を挙げている相手攻撃陣のスピードとパワー、そしてテクニックを有した分厚い攻撃に晒され、再三決定的なピンチを招いていた。
 
「相手が蹴って来ると分かっていたので、なるべく僕が相手FWとの距離を詰めて、そこで弾けるなら弾く。落とされて、僕が後ろ向きの状態で相手にボールを持たれることが、本当に最悪なパターンなので、最低限、自分が前向きにディフェンスを出来る位置取りは必要だと思った。拾えればいいけど、ノルマはそこでした」
 
 原は自分の役割を熟知し、「やってはいけないこと」を肝に命じていたからこそ、CBと連動しながら、得意の予測力と危機察知能力の高さを駆使し、相手のアタッカー陣への圧を強めることに成功した。
 
 この原の動きをサウジアラビアの選手たちも明らかに嫌がるようになり、79分にサウジアラビアは1トップに長身のFWアルムワラード(20番)を投入。アルクライフ(10番)、アルナージー(6番)、アブドゥルラーマン(11番)のこれまで計10ゴールを叩き出している3人をシャドーに配置し、アルムワラードをターゲットに、より前への圧力を高めて来た。
 
 この相手の変化にも、原は冷静に対応した。「20番との距離感は意識しながらプレーして、相手のシャドーに前向きに拾わせないことを考えた」と、ターゲットマンを視野に捉えつつ、状態がいい選手にボールが渡らないように頭をフル稼働させた。
 
 緊迫の状態のまま試合は延長戦に突入するが、背番号21の集中力、頭の回転は落ちない。結果、サウジアラビアにゴールを許さなかった。そして、PK戦の末に歓喜の時を迎えた。
 

次ページ「時間が経つのがめちゃくちゃ長かった」

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事