大久保も感謝する風間八宏の教え。プロ選手にも目から鱗だった「フリーの定義」とは?

2016年10月26日 竹中玲央奈

「なぜ勝ちたいかと言われたら、みんなが見ているから勝ちたい」(中村憲剛)

今季で勇退することが決まっている川崎の風間監督。クラブに攻撃的なサッカーを浸透させた功績は大きい。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 風間八宏監督率いる川崎フロンターレは、Jリーグの中で異質とも言える攻撃的なサッカーを展開してきた。そのチームを象徴するような印象的な中村憲剛の言葉がある。
 
「俺たちは"堅守速攻"がしたくてサッカーを始めた訳ではない」
 
 これは何も、守備に重きを置いてカウンターで相手を仕留めるチームに対しての批判の中で発せられた言葉ではない。川崎が展開するサッカーについて対話をしている中で、何気なく彼の口から発せられた言葉だ。
 
 プロ選手のみならず、すべてのプレーヤーは、純粋にボールを足で扱うことに楽しさを覚えたからこそサッカーを続けている。そうしたサッカーというスポーツの本質的な部分を突き詰めたのが、風間監督だった。
 
 試合ではボールを握り続け、最も感情が高まるゴールの瞬間を多く創出し、ピッチに立つ選手たちに充実感を与えると同時に、観衆を楽しませる――。これを常に頭の中におき、現実に体現しようと歩みを続けてきた。特に"サッカーはエンターテインメントであり、見る者を楽しませる義務がプロにはある"という信念は常に変わることはなかった。
 
「"勝つ"ことは大事なのだけど、なぜ勝ちたいかと言われたら、みんなが見ているから勝ちたい訳であり、サポーターがたくさん入るから勝ちたいし、たくさんの人たちに見てもらいたい。それから、たくさんのサポーターに楽しんでもらいたい。それと勝つのがイコールだということであり、それをやるのがプロチーム」
 
 退任が発表された直後にも、風間監督はこういった言葉を残していた。
 
 とはいえ、これを形にするまでには時間を要し、特に就任直後の2012年から2013年の序盤戦は結果が伴わず、「勝てなかったり、ボールを全然持てなかった」(中村)時期もあり、解任を求める声も少なからず存在したのも事実である。
 
 ただ、それでもブレずに取り組み続けてきた結果、今の魅力ある攻撃的なチームが築き上げられるに至ったのだ。
 
 中村は言う。
「ここまで、それこそみなさんが評価してくれるサッカーになったことは、クラブというかサポーターも含めて我慢しなければいけない時期もあって、それを乗り越えたからというのがある」
 

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