連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】浦和相手に主導権を握っていた広島はなぜあっさりと崩れたのか

2016年09月26日 熊崎敬

思い通りに試合を進めていたはずが、気が付けば追いかける展開に。

前半は主導権を握っていた広島。P・ウタカのPK失敗から歯車が狂い始めた。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 浦和3-0広島。スコアを見るとホームチームが圧勝したかのように思えるが、内容で勝っていたのは広島だった。
 
 特に前半、広島はホームチームにほとんど何もさせなかった。
 
 広島は自陣深目に5バックを敷いて、浦和を迎え撃った。
 これは前線に5人が広がる浦和の攻めに、きっちりと枚数を合わせて対応するため。ミキッチ×関根、塩谷×高木、千葉×興梠、水本×武藤、柏×駒井という5つのマッチアップができ上がった。
 
 一見、守備的だが、この戦形は攻撃に威力を発揮した。
 広島のDFは、敵の足下にパスが入るたびに厳しく当たり、多くのボールを刈り取った。そしてボールを奪うと、そのまま前方にボールを運び、浦和の背後の広大なスペースを突く。
 
 攻めるたびに、攻められる――。
 こうした形が何度も繰り返されたことで、浦和は足も思考も停止してしまった。
 
 そして主導権を握った広島は31分、狙い通りの反転速攻からミキッチがPKを獲得する。
 だが、ここから広島は崩れ出した。ピーター・ウタカがPKを外すと、3分後には逆にカウンターを食らい、千葉がオウンゴールを献上。思い通りに試合を進めていたはずが、気がつけば追いかける展開になってしまった。
 
 後半も攻勢に出た広島だが、決定機はことごとく西川に阻まれ、逆に自滅するような形で2点を失い、敗れ去ることになった。
 
 プラン通りの試合運びができているのにゴールを決められず、逆にあっさりと失点する。Jリーグでは、こうしたゲームを見ることが少なくない。
 
 PK失敗はともかく、直後の千葉のオウンゴールは非常にもったいなかった。反転速攻で主導権を握っていたチームが、逆にカウンターを食らって慌ててしまう。
 状況は3対3。完全に崩されたわけではないのに、千葉は足下に来た敵からのパスを、自陣ゴールに蹴り込んでしまった。
 
 攻守が表裏一体となったサッカーは、攻めながら守り、守りながら攻めるスポーツだ。ピッチ上では、つねにそのことを考え、動かなければならない。
 
 埼スタでの広島は無得点に終わったが、「守りながら攻める」はそれなりにできていた。だが、「攻めながら守る」はできていなかった。
 
 これは日本サッカーの、ひとつの課題だと思う。
 多くのチャンスをふいにして、逆に一発で崩されるというのは代表戦でも見られることだ。
 こういう時、「サッカーとはこういうもんだ」、「自分たちのサッカーはできた」というと何となく説得力があるのかもしれないが、要は臨機応変に動けないということだ。
 
 調子がいい時ほど、人間の心には油断が生まれやすい。
 こういう時ほど「いや、どこかに落とし穴があるはずだ」と考えられる人間や組織でなければ、いい選手、いいチームにはなれないだろう。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
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