U-16日本の若き逸材たちが痺れるような「1-0」勝利で手に入れたもの

2016年09月26日 安藤隆人

UAEは『事故』が起こるのをしたたかに狙ってきた。

30分、瀬古の先制ゴールが決まり歓喜に湧く日本ベンチ。その後は追加点は奪えず苦しんだが、厳しい試合を僅差で勝ち切った。(C) J.LEAGUE PHOTOS

 彼らが手にしたのは、U-17ワールドカップの出場権だけではない――。
 
「1-0で勝ち切れた彼らの経験値は大きい。3-0などで楽に勝てるよりも、大きなものを経験できた」

天才アタッカーの実像――久保建英とはいかなるプレーヤーなのか
 
 森山佳郎監督がこう振り返ったように、16歳以下の若き日本代表の逸材たちはこの90分間で多くのものを手にすることが出来た。世界が懸かった一発勝負の準々決勝は、グループリーグとは雰囲気が一変する。これまで味わったことのないような大きなプレッシャーの下で収めた1−0という僅差の勝利。『経験』という名の財産を、大いに享受できたと言える。
 
 この戦いは、最後まで痺れるような緊張感があった。
 
 立ち上がりから攻勢に出たU-16日本代表は、4分のMF平川怜のミドルシュートを皮切りに、5分には左MFに入った中村敬斗が、6分には左サイドバックの菊地健太のクロスを、右MF久保建英がヘッドで合わせるなど、持ち前の攻撃力を発揮。14分には右サイドバックの喜田陽が強烈なミドルシュートを放つが、GKのファインセーブに阻まれる。25分の久保の突破からのシュートもGKの正面を突いた。
 
 それでも30分、右CKを得ると、久保のキックが枠に飛び、これをGKがファンブル。こぼれ球に「あそこは狙っていた」と素早くCB瀬古歩夢が反応し、ゴールネットを揺らした。
 
 だが、その後が続かなかった。1−0で迎えた後半、UAEは日本の隙を見て、キーマンのMFアリカミス(11番)、FWファウジ(14番)がスピードに乗ったドリブルで仕掛ける。時にはラフにボールを蹴り込んで、『事故』が起こるのをしたたかに狙って来た。
 
 ここで輝いたのが平川と福岡慎平のダブルボランチ、瀬古と菅原由勢のCBコンビ、そしてGKの谷晃生だ。福岡は豊富な運動量を活かして、相手に強烈なプレスを仕掛け、平川は中央でバランスを取りながら、セカンドボールを取り続けた。そして瀬古と菅原がスムーズなチャレンジ&カバーを見せると、GK谷はこの試合で唯一のUAEの決定機である75分のFWアルナキビ(7番)の強烈なシュートを、右手一本で防ぐビッグセーブを見せた。
 
 FW宮代大聖も81分に自ら得たPKをポストに当てて外してしまったが、下を見ることなく、前線での積極的なプレスや起点作りという仕事を徹底してやり抜いた。大会途中で体調不良により一時離脱したFW山田寛人も、66分に投入されると、多くの決定機を作り出した。
 
 まさに全員で掴みとった「1−0」の勝利。グループリーグははっきり言って骨のないチームが相手だっただけに、今大会初となる接戦に集中力を切らすことなく、結果を掴みとった彼らは称賛に値する。
 
 しかし、まだ今大会が終わった訳ではない。
「1年半かけて、いろんな遠征や強化合宿をしたなかで、この試合に勝つためにやって来た。明日からは世界に向けた準備。その途中に準決勝がある。今日からフォーカスのポイントは変わって来る。世界に向けたスタートを切れた」と森山監督が語ったように、U-16日本代表はより一丸となって世界の高みを目指し、準決勝に臨む。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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