【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の八十二「五輪代表がなすべきは“我慢”ではなく“機先を制する戦い”」

2016年08月03日 小宮良之

ブラジル戦を良しとするなら、本番は一敗地にまみれるだろう。

ブラジルに対して防戦一方となった日本。ここからポジティブな要素を見出すのは難しかったが……。写真は2失点目。 (C) Getty Images

「我慢強く戦う」
 
 それが、リオデジャネイロ・オリンピックに向けた、日本サッカーの基本的戦略だという。
 
 辛抱強く戦うことは、正攻法のひとつだ。耐え忍ぶなかで冷静に相手の隙を探し、素早く衝く――。効率的な戦いと言える。事実、手倉森誠監督率いる五輪代表は、アジアをそうして勝ち抜いた。
 
 8月4日(現地時間)、彼らはマナウスでナイジェリアとの初戦を迎えるが、世界でもその戦い方は功を奏すのか?
 
 一歩間違えれば、「我慢」は「腰が引ける」という事態に陥る。相手を待ち受ける、という姿勢は、心理的に激しい消耗を引き起こす。攻められる側というのは、攻める側よりも、精神的な疲労度が非常に高い。
 
 戦いのなかで慎重になり過ぎ、結果的に怖じ気づき、攻め入られてしまうと、相手のペースに引きずり込まれる。無論、守り抜くことで集中力が高まることがあるが、一度崩れたら瓦解しかねない。
 
 我慢して戦い切れる典型が、イタリアのチームだろう。それは伝統なのか、DNAにすり込まれているのか……彼らは受け身に立っても、疲れを覚えない。
 
 まるでマゾヒストのように、攻められるたびに攻撃性を充満させていく。そして機を見て、嵩にかかってカウンターを仕掛けられる。驚くべきは、失点後の反発力だろう。ため込んでいた鋭気の全てぶつけるような反転攻撃を見せられる。
 
 しかし、日本人はこうした戦いを不得手とする。
 
 日本人選手は、攻撃に攻撃を重ねることでようやく恐怖心を取り除ける。無謀にも見える急速と突進によって相手を攪乱し、急所を突くという戦法を得意とする。
 
 身体的に、アジリティーとそれを繰り返すスタミナに長け、技術的にスモールスペースでの動きに優れていることから、機動力を利点にした攻撃スタイルが向いているのだろう。
 
 兵法で言えば「騎兵的」であり、神速を尊ぶ(スピードに対する誤解によって急ぎ過ぎてしまう面もある)。重厚な守りに必要な「歩兵的」な性格ではない。
 
 大会直前のブラジル戦を「我慢強い戦いだった」として良しとするなら、本番は一敗地にまみれる。
 
 この試合では、バックラインがずるずると下がり、ボールホルダーに対して距離を取り過ぎ、好き勝手を許している。敵を心理的に自由にしてしまったのだ。結果的に、蹂躙されることとなった。DFの多くは混乱し、試合後は「どうすれば分からなかった」と語っている。

次ページ「辛抱して勝つ」以外の戦いを選ぶことはない、というより…。

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