「全盛期のアンリを彷彿させる」プレミアで19得点のイサクをエキスパートが徹底解剖!レジェンドになれる器か――【エキスパート超分析】

2025年04月01日 ワールドサッカーダイジェスト編集部

攻撃の全局面に関与するモダンなムービングCF

ニューカッスルで躍動するイサク。(C)Getty Images

 アレクサンデル・イサクは、今シーズンのプレミアリーグで最も注目されるストライカーのひとりだ。29節終了時点で記録している19ゴールは、得点ランキングでトップのモハメド・サラー、2位のアーリング・ハーランドに続く3位。12月から1月にかけては8試合連続ゴールを挙げて、チームを5位(現在は6位)にまで押し上げる立役者となった。
 
 190センチを超える長身ながら、優れたコーディネーションに支えられたしなやかな身のこなし、十分以上のスピード、高度なテクニックを備え、戦術センスやゴールへの嗅覚にも優れる。イサクが天から授かったタレントとクオリティーは、欧州トップレベルのストライカーに成長できるだけのレベルにある。母国スウェーデンのAIKで16歳にしてトップチームにデビューし、17歳でドルトムントに引き抜かれたというキャリアも、ポテンシャルの高さを証明するものだ。
 
 それを考えれば、通常なら若いタレントを積極的に起用してその価値を高め、高値で売却しようとするドルトムントがわずか2年で放出、移籍先のレアル・ソシエダでも決定的なブレイクには至らないまま3シーズンを送ってニューカッスルに渡り、そこで3シーズン目を迎えて25歳になった今、ようやくそのタレントを全面開花させつつあるというキャリアは、遅咲きの部類に属する。
 
 もっとも、ストライカーはサッカーの中でもある意味で特殊なポジションだ。どれだけ優れた才能を持っていたとしても、それをコンスタントに発揮して結果(ゴール)に結びつけるためには、外部からの大きな期待とプレッシャー、決定機という特別な状況がもたらす感情の激しい起伏を受け止め、消化できるメンタル面の安定や成熟が不可欠だからだ。
 
 20歳そこそこでブレイクした早熟なストライカーがその後に伸び悩み、あるいは早くからタレントを認められながら20代半ばになってようやくブレイクする選手が少なくない理由もそこにある。おそらくイサクも、後者に当てはまる典型的なケースだろう。
 
 2017年に17歳でデビューしたスウェーデン代表でも、19年のEURO2020予選以降は2トップの一角にほぼ定着し、エースストライカーの立場を担ってきたものの、ここまでの数字は50試合で15得点と物足りない。EURO2020本戦、W杯予選プレーオフ、EURO2024予選といった重要な試合ではほとんど活躍できていない。
 
 現在のスウェーデン代表は、そのEURO2024予選でベルギー、オーストリアと同居したグループで3位に終わって本戦出場を逃した後、24年3月に就任したデンマーク人監督ヨン・ダール・トマソンの下で、チームの再構築に取り組んでいる状況。昨年後半に行なわれたネーションズリーグでは、もうひとりの才能溢れる遅咲きストライカー、ヴィクトル・ギェケレシュと2トップを組み、故障欠場した2試合を除く4試合に先発して4得点を挙げ、リーグCグループ1の1位に貢献。前回(22年)に最下位で転落を喫したリーグBへの復帰をもたらした。クラブと同様に代表でも、今シーズンに入ってようやく持てる本来のクオリティーを発揮しはじめたところだ。
 
 そのスウェーデン代表、そしてとりわけニューカッスルで現在見せているパフォーマンスは、プレミアリーグはもちろん欧州全体を見渡しても、トップレベルの評価に値する。
 
 エディ・ハウ監督の下、4-3-3のCFを務めるそのプレースタイルは、最前線中央で基準点となるよりも、前線を広く動いて流動性を作り出し、ビルドアップから仕掛け、フィニッシュまで攻撃の全局面に積極的に関与する、モダンなムービングCFのそれだ。エレガントな身のこなし、大きなストライドがもたらす加速、柔らかいボールタッチと高いテクニックは、かつてアーセナルの前線でエースとして躍動した全盛期のティエリ・アンリを彷彿させる。
 

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