涙のスピーチ。オニさんとの別れ。川崎のキャプテン・脇坂泰斗が新シーズンへ「本気でMVPを狙う」と明言する理由

2025年02月14日 本田健介(サッカーダイジェスト)

感動的なスピーチの舞台裏とは

鬼木監督から長年、指導を受けて成長した脇坂。様々なことを学んだ。(C)SOCCER DIGEST

 節目の30歳を迎えるシーズンへ脇坂泰斗は今、どんな想いを抱えているのか。新たに就任した長谷部茂利監督の下でも2年連続となるキャプテンを担う新生・川崎のキーマンに迫った(全3回/3回目)。

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 忘れられない光景がある。

 2024年のホームでのリーグ最終戦。キャプテン1年目だった脇坂はサポーターの前で想いのたけをスピーチに込めた。その目には抑えきれない熱いものがあった。1年間の感謝、結果を残せなかった悔しさ、来季も一緒に戦ってほしいという呼びかけ。脇坂らしい等身大の言葉は多くの人の胸に突き刺さったことだろう。ただ感動的なスピーチには裏側があった。

「サポーターの方々は僕が泣き虫だなと考えているはずなので、泣くと想像していたと思うんですよね。ただ、あの時の舞台裏を話すと、動画で見られた方も多いと思うんですが、試合が終わってロッカールームに戻ったところで、(川崎での最後の指揮となった)オニさん(鬼木達監督)からのチームへの話があって、オニさんはそのあと、一人ひとりと握手をしながら言葉をかわしていたんです。

 でも、あの時、試合に出ていなかったメンバーはロッカールームの外で見ていて、怪我をしていた僕もそのひとりだったんですね。しかも、僕はその後、キャプテンとしての大事なスピーチが待っていた。だから、これはオニさんと顔を合わせたら絶対に泣いてしまうと、こそっと端のほうにいたんですよ。
【画像】泰斗&崚平の"脇坂兄弟"貴重2ショット!

 
 でも、オニさんはああいう方なので、ロッカールームを出て全員の下を回ってくれた。正直、僕は『ああ、この流れはヤバい』と感じていて。それで隣の(大島)僚太くんにオニさんが『僚太、大丈夫。怪我も色々あるかもしれないけど、自分を信じて。やれるから』って声をかけた時に、もう涙腺が崩壊して。『そうだよ、僚太くんなら絶対にやれるよ』って僕も号泣していました。そして最後にオニさんが僕のところに来てくれて...もう手袋で涙を拭うのに必死でしたね。

 スピーチでは、シーズンの締めくくりとして、やっぱり2024年の悔しさとともに、応援してくださったサポーターの方々やスポンサーの方々への感謝を前向きに伝えたかったんです。結果はものすごく悔しいし、喜ばせられなくて申し訳ない。ただ、悔しい想いは皆さんも一緒のはずで、だから謝罪はしたくないというか、僕らは同じ想いを共有している。だからこそ、垣根を越えた、川崎を愛する仲間として、フロンターレはこんなものじゃない、来年、一緒に戦ってくださいと、みんなで前を向く場にしたかったんです。だから本当は泣きたくなかった。

 オニさんの最後の試合で感情はかなり入っていましたが、あのスピーチでは、一度、それは置いておいて、しっかり想いを言葉にしたかったんです。だからあの涙はその前の理由があったと言いますか...。まあ、オニさんとの会話がなくても、僕は泣いていたかもしれないですが、そこだけは誤解なきよう伝えさせてください(笑)」

 それでも心温まるスピーチはきっと川崎に関わる者、誰の胸にも届いたはずである。
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