小林悠×太田宏介スペシャル対談。カズさん、モトさん、千葉ちゃんらの格好良すぎる背中。ふたりが受け取ったバトン

2024年11月01日 本田健介(サッカーダイジェスト)

「辛い日々、痛い日々は、ゴールが忘れさせてくれる」(小林)

多くの先輩の背中を見てきたふたり。貴重な学びを得た。写真:滝川敏之

「ゴールを奪えれば俺は生きていける」

 小林悠はこれぞストライカーという言葉を残す。

 どんなに辛い日々があっても、ゴールが自分を生かしてくれると。

 37歳となり、引退という言葉がより色濃くなってきたのは事実である。現に盟友の太田宏介は新たな挑戦へ、昨年限りでスパイクを脱ぐ決断をした。他の先輩や同世代も次々にピッチから離れていく。それでも小林は抗い続ける覚悟である。どんな時でも自分のやれることをやり続ける。その背中を通じて伝えられることがあると信じて。

 そしてその姿勢は、先輩たちが示してきてくれたものである。多くの選手から刺激を受けてきた太田も「そうやって歴史は紡がれていく」と力強く語る。やはりふたりの会話から学べることは多岐に渡る。スパシャル対談の第2弾である(全4回の2回目)。

――◆――◆――

――小林選手は以前にはストライカーらしく、1点でも取れたら、1年を戦っていけると話していましたね。点を取れなくなった時こそ、決断をするかもしれないと。

小林 そうそう。それこそチームの勝利もありますが、ゴールさえ決められれば、僕は生きていける。辛い日々、痛い日々は、ゴールが忘れさせてくれるんですよ。

太田 報われる的なね。

小林 そう、そこがないと多分やれてない。

太田 FWってね、毎年、活きの良い若い選手が出てくるし、外国人も入ってくるなかで、生き残るって簡単なことじゃないもんね。

――365日ずっと戦い続けるわけですからね。だからこそ小林選手の中で、"引退"の2文字が頭をよぎったことはあるんですか?

小林 全然ありますよ。よぎったというか、そろそろなのかなというのは。そこは自分の中である程度、考えながらやっていますね。だからこそ、そう考えるようになってからのほうが、1日1日を大切にしなきゃと過ごせていますね。
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――それはどれくらいのタイミングから?

小林 うーん...いつって言うのも難しいですが、2、3年前ぐらいですかね。やっぱりスタメンで出られなくなってきて、コンディションを保つのが段々難しくなり、気持ちが、なんて言うんですかね、ちょっとこう上下したというか。

太田 あるよね、そういうタイミングって。

小林 そういう気持ちが芽生えると、いや頑張らなくちゃと、反発して抗って。そうやって日々、戦っている感じですかね。

太田 ベテランと呼ばれる歳になってくると、周りからベテランと言われる機会が増え、チームのスタッフらからもより優しくされるようになると、以前まで届いていたボールに届かないシーンがあると、元々届かなかったかもしれないのに、やっぱりベテランだから届かないのか、といったようなマインドに陥ったりしてしまう。『若い時はもっと走れていたはずなのに』『以前だったらオーバーラップできていたのに』と、考えてしまうと厳しくなってしまう部分がある。現実と理想が噛み合わないというか。

 ただ幸い、僕は高卒1年目で入団した横浜FCで、30代だったカズさんだったり、山口素(弘)さんらが、試合に出られない時でも死ぬほど練習をする姿を見ることができた。一方で練習に身が入っていないような選手たちはすぐ消えていってしまった。やっぱり試合に出られる、出られない関係なく、身体のケアなどやるべきことをやれているかが大事だと若いながらに学ぶことができたんです。それは様々な選手を見てきましたが、長くプレーするための真理でした。それこそ、そういう選手ってピッチ外でも、クラブスタッフ、メーカーやスポンサーの方々、ファン・サポーターとしっかりコミュニケーションをする。すごく勉強になりました。

小林 長くやっている選手って人間性が本当に素晴らしい。

太田 だからピッチの上だけでやっていればいいだけの話ではないんだよね。例えば名古屋時代のチームメイトの千葉ちゃん(和彦)は、めちゃくちゃ練習するんですよ。名古屋にいた2シーズンで、確かリーグ戦は1試合のみ、しかもアディショナルタイムの1分しか試合に出られなかったはず。だけどもう練習前、練習後などに、ひとり、坂道などで黙々と走り込みをしていた。俺はその姿を見ていて。

小林 それは凄いな。

太田 めちゃくちゃ格好良かった。そして千葉ちゃんはキャラも素晴らしく、あれだけチームも盛り上げてくれた。そういう人にはやっぱりチャンスは巡ってくるんだなと。移籍した新潟で活躍している姿を見ると、そうしみじみ思っちゃったね。

小林 いやー格好良いな。選手の鑑だよ。

太田 まさにだね。俺はどちらかと言うと、自分を追い込み抜けるタイプではなかったんだけど、去年1年は若手の多かった町田で、自分が姿勢で見せないといけないと考えて臨んでいた。それは引退を決めていたし、後悔のないようにという想いもあったから。それこそ、悠がさっき言っていた1日1日を大事にというところだよね。そういうマインドでずっと過ごしていたら、最後数試合はスタメンを掴むことができた。やっぱりそういった成果は返ってくるんだなと実感したね。

小林 やっぱり試合に出られずとも決して手を抜かない選手は尊敬できるし、自分もそうありたい。メンバーから漏れても腐らず自分に矢印を向け、何が足りないのかを考える。そうあり続けたい。

――そういう目標として小林選手のなかでは具体的に記憶に残る選手はいますか?

小林 いっぱいいますよね。(中村)憲剛さんはずっと試合に出続けていたのでイレギュラー枠ですが(笑)、それこそ僕がキャプテンを務めて初優勝を果たせた時(2017年)、タッピー(田坂祐介)、(狩野)健太くんらは、実力があるのになかなか試合に絡めなかったけど、一切手を抜かずに、いわゆるサブ組の中で取り組んでいた。優勝するチームってサブ組が強いんですよね。そういう意味で、ふたりが背中で示し続けてくれたからこその優勝でしたし、キャプテンとして助けられました。

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