【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の七十「タイミングを知り、ボールを動かし、ゲームを創造する」

2016年05月12日 小宮良之

1対1の強さも大事だが、連係の向上はチームの強さに繋がる。

タイミングを知り尽くした男たちは、どのチームでも重宝され、そして所属チームを飛躍的に強くすることができる。写真はブスケッツとモドリッチ(奥はベンゼマ)。 (C) Getty Images

 フットボールは運動競技である。その点から、基本として身体的能力が差をつける場面はあるだろう。速さ、強さの鍛錬なくして、技術の上達も見込めない。しかし、身体的な特長に頼り切ったプレーでは、トップレベルで通用しない。
 
 フットボールは、インテリジェンス=駆け引きが原点にある。
 
 個人対個人の場面に見えても、実際は集団対集団であり、周りを使って自らが輝き、自らが周りを輝かせる、という競技である。
 
 例えばSBを語る時、「ボランチやサイドハーフ、CBと連係して守るのが上手い」という評価がある。1対1での責任感や戦闘力は必要だが、周りとの連係が上がるほど、それはチームの強さとなり、個人も勝利者となるのだ。
 
 では、いかにしてその集団性は作られるのか?
 
 選手の特性というものは、ある程度、決まっている。チェスは駒が移動範囲や方向が決まっていて、例えばルークは縦横にはいくらでも動けても斜めには移動できない。同じようにフットボーラーにも特性があり、自ずとやれることと役割は限られており、駒の組み合わせのなかで勝負をする。
 
 しかし、フットボールとチェスには、根本的な相違点がある。
 
 フットボールの場合、自分たちがボールを持つ、というのが、理論上の最大の強みとなる。チェスのボードで動くのは駒だが、ピッチで動くべきは人ではない。動くべきは、ボールなのである。
 
 巧みに正確にテンポを変えながらボールを動かせるか。それによって相手を疲弊させ、自分たちが先手を取り、有利なかたちを作ることができるのだ。
 
「ボールは汗をかかない」
 
 伝説のヨハン・クライフが残した言葉は、単なる理想論ではない。
 
 言い換えれば、どのポジションにいても、プレーを有効にする「タイミング」を知っている選手が求められる。どんな速さも、強さも、適切なタイミングには及ばない。タイミングはチーム力を生み出す。
 
 その点、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツ(以上バルセロナ)、ルカ・モドリッチ、カリム・ベンゼマ(以上レアル・マドリー)の4人は、「世界で最もタイミングを知り尽くした選手」と言えるだろう。
 
 それぞれポジションは違うが、彼らはフットボールを「クリエイティブ」する。常に自分たちのタイミングでプレーし、よしんば封じられたとしても、ちょっとした動きで相手のバランスを崩し、再びプレーを創り出せる。
 
 彼らは時計を動かしているようなもので、同時に空間もその手中にある。こうした選手を揃え、鍛えることで、クライフのドリームチームやジョゼップ・グアルディオラの最強バルサは誕生した。

次ページ日本サッカーにとって「ボールプレー」は生き残りに不可欠な術。

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