【横浜】世界も認める“名手”俊輔がPKを蹴らなかった理由

2016年05月01日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

「起爆剤というか、なんとかノッてほしかった」(中村)。

類稀なテクニックで攻撃を組み立てた中村。味方の良さを引き出しながらチャンスを演出したが、この日は湘南の堅牢な守備を崩し切れなかった。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 その瞬間、ほとんどの人が「なぜ?」と疑問に思ったのではないだろうか。
 
 湘南との神奈川ダービーで1点ビハインドの横浜は69分、PKのチャンスを得る。齋藤のシュートがエリア内にいたパウリーニョの手に当たると、主審はPKスポットを指差した。
 
 転がっているボールを拾ったのは齋藤だった。その近くには背番号10がいたが、齋藤は手にしたボールを中村ではなく、カイケに渡した。
 
 1-2で敗れた前節の広島戦で、同点弾となるPKを決めたのは中村だった。それだけに、FKやCKを含め、チームのセットプレーの全権を握る中村がこのPKの場面でもキッカーを務めると考えるのは、至極当然なことだろう。
 
 しかし、世界も認める"魔法の左足"を持つ男は、PKを蹴らなかった。
 
 なぜか――。理由はいたってシンプル。チームの中で明確なPKキッカーは決まっておらず、この日はカイケが志願したからだ。
 
「前回はナカムラがPKを蹴って、しっかりと決めているけど、自分も日々、トレーニングをしているし、周りもそれを見ている」(カイケ)
 
 そうした背景があるなかで、中村がカイケの要望を受け入れたのは、「点を取ることでFWはノッてくる」と言う中村なりの考えがあってのことだ。
 
「今チームには"不動のFW"がいない。だから、起爆剤というか、なんとかノッてほしかった。『俺が蹴る』っていうのもアリだけど、譲ったというか、自然と」
 
 湘南戦、カイケは先発から外れ、ベンチスタートだった。本人からすれば、悔しい想いもあったし、途中出場のチャンスを得て、アピールしたい気持ちもあったはず。そんなカイケの心情も中村は感じ取っていたに違いない。
 
 キッカーを任せられるだけの理由もあった。「(カイケが)PKの練習をしている時、蹴り方も、膝下の振りも良かった」。普段からコミュニケーションを密にしているようで、「『試合中に(PKに)なったらどうしたい?』って聞いて、『蹴れるんだったら蹴りたいけど』とか、そうやってお互いにリスペクトし合っている」から、信頼もできた。
 

次ページシュートを外したルーキーに拍手を送る。

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