【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の六十七「バルサの連敗を引き起こした“勝利の麻薬”」

2016年04月18日 小宮良之

勝利を重ねることで、小さなひび割れを押し隠してきた結果…。

33節のバレンシア戦にも敗れ、リーガ3連敗。4月の公式戦の成績は1勝4敗・得点4失点8。ごく最近まで見せていた圧倒的な強さは、一体どこへ……。写真はバレンシア戦でのピケ。 (C) Getty Images

「勝利は麻薬のようなものなんだ。全能感があって、何も怖くなくなる。負ける気なんてしない」
 
 39試合無敗という記録の真っ只中にあった時期、バルセロナのイバン・ラキティッチは、その感慨をこう口にしていた。
 
 勝利は、選手に自信を与える。自信とはプレーに対する確信であり、それが強さに繋がる。勝利を積み重ねることで最強となる、というのは、フットボールという競技においてひとつの定理だろう。
 
 しかし、"勝利の麻薬"はいつか必ず切れる。
 
 生来の王者は決して勝利に飽きない――。そんな言い方もあるが、それでもどこかで心身のバランスは崩れる。
 
 肉体的に疲労が蓄積した場合、心がどんなに跳ねていたとしても、身体が一向に動かなくなる。そして、身体が動かないことを実感してしまった時、心も沈み込む。逆に、勝利に対して精神的に麻痺すると、身体が反応しなくなる。
 
 昨年10月から今年3月まで無敵街道を突き進んでいたバルサは、4月になってから突如、連敗を続けている。
 
 勝っているあいだ、「MSN」の得点率が頼みの綱となっていた。プレー内容そのものより、勝利する強さだけが伝えられるようになった。
 
「主力選手の試合数が多すぎる。昨年12月には、日本に遠征してクラブワールドカップまで戦っている。その影響は、いつか出るだろう」
 
 バルサに関しては、疲労の影響が早くから心配されてきたが、勝利を重ねることで小さなひび割れを押し隠してきた。勝者の驕りだったと言うべきか……。思い起こせば、5年前に世界一になった時も、バルサはリーガ、チャンピオンズ・リーグ(CL)を逃しているのだ。

 4月15日の時点で、バルサは2015-16シーズンで55試合(リーガ、国王杯、CL、スーパーカップ、クラブワールドカップ)を戦っている。
 
 一方、そのバルサをCLで撃破したアトレティコ・マドリーは48試合、クラシコでバルサに黒星をつけたレアル・マドリーに至っては43試合である。
 
 試合出場時間が飛び抜けて多いバルサだが、さらにルイス・エンリケが主力選手を固定したことで、3000分超の出場時間を記録する選手は11人を数える。この数字も、A・マドリーの8人、マドリーの4人と比べれば、飛び抜けて高い。
 
 ここからも、バルサの選手たちの肉体的負担が大きいことは一目瞭然だろう。

次ページ勝利に囚われず、消耗を抑え、心身のバランスを保つことが重要。

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