地元記者でさえ「寝耳に水」だった引退発表。長谷部誠がドイツで愛される理由「ハセベが『プロの鏡』と呼ばれる所以だよ」【現地発】

2024年04月23日 中野吉之伴

周到に準備されていたのだろう

今季限りでの現役引退を発表した長谷部。(C)Getty Images

 フランクフルトはいつも週頭にメディア関係の予定を知らせてくれる。今週、広報から届いたメールには、通常監督と選手一人がメディア対応するところ、対応選手が2人と記載されていた。それも水曜日に1件と木曜日に1件と別々に設定された記者会見。そのうちの一人が長谷部誠だったことで、「ひょっとして」という気持ちがなかったわけではない。

 ただ、それにしては何のリリースもなければ、噂の記事もない。ビルト紙は「チームが不調でテコ入れが必要なため、今週は例外的にリーダー2選手の記者会見が予定されている」という論調の記事を載せていた。

 記者会見場に到着すると、地元記者やクラブ関係者からは普段通りの雰囲気に感じられた。長谷部誠ほどの選手が「引退表明」あるいは「現役続行」という記者会見だったら、先にリリースがあって、それから大々的にというのを勝手にイメージしていたので、ビルト紙の指摘通り、この日は通常の選手インタビューなのかなと思っていた。

 だが、広報とともに会場に現れた長谷部は、「今季限りで現役引退することを決めました」と発表した。後方スクリーンには「ダンケ、マコト!(ありがとう、マコト!)」のドイツ語の文字が準備されていたものの、おそらく会見場にいた地元記者を含め、誰もこれが引退表明会見になるとは思っていなかったのではないだろうか。
【PHOTO】今季限りでの現役引退を発表…!40歳になった長谷部誠のキャリアを厳選ショットで振り返る!(2003~2024)
 地元記者でさえ「寝耳に水」のような驚きのタイミングで、驚きの内容が発表されることはそうはない。通常、正式発表があるまでは公表しないでね、というところで、断片的な話は出てきたりするものだ。

 SNSで「長谷部誠記者会見をYouTubeライブでやります」というのがクラブサイドからアップされても、「引退会見をやります」というものではなかった。今回に関しては憶測が流れることがないくらい、周到に準備されていたのだろう。

 ネット記事では盛んに様々な情報が出ては消えていく。眉唾ものの話があたかも本当であるかのように装飾されてはSNSで瞬く間に拡散されていき、時に炎上をしながらも、気が付くと鎮静化していく。そうしたうごめく渦の中にいることが日常化されてしまったら、本当に正しいことがなんなのかもわからなくなってしまう。

 自分の口から正しい情報をストレートに伝えたいし、それが自身にとっても、チーム、クラブ、ファンにとっても、そしてメディアにとっても大切なことだからという長谷部の思いをそこに感じるのだ。
【PHOTO】日本代表を応援する麗しき「美女サポーター」たちを一挙紹介!

次ページ「あれは僕のミスだった」と自分から切り出し...

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事