創立100周年に熱狂したシント=トロイデン。小さな町のクラブはいかにして変化を遂げたのか、なぜ日本人は愛されるのか【ベルギー発】

2024年03月09日 中田徹

サンダーランドからやって来たサポーター御一行に遭遇

メモリアルゲームで決勝点を叩き出した伊藤(右から2人目)がチームメイトの祝福を受ける。(C)Panoramic/AFLO

 2月24日午後2時半、シント=トロイデンの町中にあるミンダーブルーダース教会に敬虔なSTVV(シント=トロイデンVV)の信者が集まった。450人のサポーターが旗を振り、チャントを繰り返し、浴びるようにビールを飲む。STVVの歴代ベストプレーヤー、主オディロン・ポレウニス様はきっと天で微笑んでいることだろう。今日はSTVVクラブ創設100周年を祝う特別な日なのだ。
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 STVVのチャントを英語訛の大声で張り上げる一団は、サンダーランドのSTVVファンクラブの御一行。

「2010年、STVVのGKシモン・ミニョレ(現クラブ・ブルージュ)がサンダーランドに移籍してから、私たちとSTVVの絆が始まったんです。毎年1回、私たちはSTVVを応援するために、この町に駆けつけます。今回は30人で来ました。Twenty-twoはマスト・ゴーですね」

 Twenty-twoとはミニョレがシント=トロイデンで経営するカフェのこと。背番号22は彼の代名詞だ。

 教会の外もSTVVのサポーターで溢れていた。私は年配の婦人に声をかけられた。

「その旗はどこでもらえるの?」
「よかったら私の旗をあげますよ」
「ありがとう!」

 その後、700人のサポーター、ファン、市民がシント=トロイデンの中心部からスタイエン・スタディオンに向かって行進した。その距離1.6km。普段なら歩いて20分の距離を1時間以上かけて、ゆっくりと町の中を練り歩く。ツンツンと私の脇腹を突いてきたのは先程の御婦人だ。

「私も参加しちゃったの。旗、ありがとう!」

 俺の写真を撮れと言わんばかりに、私の前に立ちふさがったサポーターがいた。彼の着るレプリカユニホームは80年代の匂いがする、木綿地のものだった。

「これはSTVVが優勝したときのユニホームだ! 87年、我々は2部リーグのチャンピオンになったんだ」

 スタジアム手前に設けられた100周年記念のアーケードをくぐると、立石敬之CEOとミーカース会長が笑顔で迎えてくれた。
 
 スタジアムの正面にある建物から、明らかにSTVVと思われるサポーターが出てきた。家からスタジアムまでわずか10秒。理想の住処だ。

「私はここに住んでいます。STVVは私のすべてです」。クリスと名乗るサポーターは言った。

「私が好きな選手は藤田譲瑠チマ。彼はとても力強いMFだ。STVV歴代最高の選手はポレウニス。彼は68年のゴールデンブーツ(ベルギーリーグ最優秀選手)でした。このピンバッチをプレゼントしましょう。彼はSTVVのスコットランド・サポーターズクラブのメンバーです」(クリス)

――私は教会でサンダーランドのSTVVファンクラブと会いました。

「STVVはサンダーランド、スコットランド、オランダにもファンクラブがあるんです」(クリス)

 そのスコットランド人、アンディは川島永嗣がプレーしたダンディー・ユナイテッドを応援している。「今日、Jリーグが開幕して、川島もプレーしたんですよ」と教えると、「ホント!? まだ彼はプレーしているんだ」とビックリしていた。

「私にはこのあたりに友だちがいて、彼にスタジアムに連れてきてもらいました。見ての通り、手前のホテルがスタジアムのゴール裏に繋がっています。『マジでここがフットボール・クラブなの!?』と仰天しました。それから私はスコットランドでファンクラブを作り、こうして応援に来ているのです」(アンディ)

 クリスの家から何人もサポーターが出てくる。彼ら、彼女らは住民なのか?

「いえ、私の家に泊まっているだけですよ。ここはSTVVサポーターの無料宿泊所みたいなところです(笑)」

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