「精魂尽き果てるまでやり切って引退したほうが絶対に良い」中村憲剛はなぜ現役選手にそう訴えるのか「非日常を演出できる側って...」

2024年03月17日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

「良い職業でした。めちゃくちゃ」

「引退の時期」について独自の見解を示してくれた中村憲剛さん。写真:滝川敏之

 フットボーラー=仕事という観点から、選手の本音を聞き出す企画だ。子どもたちの憧れであるプロフットボーラーは、実は不安定で過酷な職業でもあり、そうした側面から見えてくる現実も伝えたい。今回は【職業:プロフットボーラー】中村憲剛編のパート5だ(パート6まで続く)。

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「現役引退後、憲剛さんはプロフットボーラーという職業をどう捉えていますか?」

 そうストレートに訊いてみた。スタジアムでもう高揚感や絶望感をダイレクトに味わえないわけで、その感覚がどうなのかと興味があったからだ。憲剛さんの答は至ってシンプルだった。

「羨ましいです」

 そして憲剛さんは「良い職業でした。めちゃくちゃ」と続けた。

「適切な言い方ではないかもしれませんが、まず、コスパが良いです。極論、2時間練習して、それ以外は自由時間ですから。なのに、良い給料をもらえる」

 確かに、そういう考え方はある。ただ、憲剛さんの「羨ましい」は別の側面にもある。
 
「スタジアムの視線を一身に集め、観客を興奮させたり、感動させたり、はたまた悔しい気持ちにさせたり、非日常を演出できる側ってやはり特別です。演者の感覚を超えるものに引退後は出合ってないです」

 だから、憲剛さんは現役選手に訴えたいことがあるという。

「何かやり残したことがある状態、少しでも気になることがある状態で身を引いてほしくないです。そろそろかなではなく、精魂尽き果てるまでやり切って引退したほうが絶対に良いよって。引退したら基本的にはピッチにプロ選手として戻れません。プロとしてサッカーをやる資格がなくなってしまうので。僕の場合は、それを理解してやめているからいいんです。戻れないのを分かって、覚悟を決めて引退したから」

 現役選手に、この言葉はどう響くのか。少なくとも、川崎のベテラン戦士には自分の声が届いていると信じている。

「今のフロンターレだと、(チョン・)ソンリョン、アキ(家長昭博)らがチャレンジしていると思います。彼らの中に0.01パーセントでも『中村憲剛は40歳までやったな、だから俺もやらなきゃいけない、やろう』って、そんな思いや覚悟が芽生えていたら、自分が残したものはあるのかなと」

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