現地ベテラン記者が香川真司を密着レポート「悲劇に見舞われたマインツ戦で1得点。自信を取り戻せたはずだ」

2016年03月17日 マルクス・バーク

歴史的な偉業を成し遂げる可能性が…。

マインツ戦で公式戦4試合ぶりに先発した香川は、73分にゴールを奪取。これが自信を取り戻す一発になったはずだ。(C)Getty Images

 3月13日のマインツ戦後、ドルトムントのラインハルト・ラウバル会長はこうコメントした。
 
「こんなことは経験した覚えがない」。
 
 この発言をプレスルームで聞いた私は、同じ考えを抱いた。サッカー記者になってから20年経つが、あれほど重苦しい雰囲気を味わったと同時に、感動を覚えた試合は記憶にない。
 
 マインツ戦では、予期せぬ事故が起きた。スタンドで観戦していた79歳の男性が前半終了間際に心臓発作で亡くなったのである。彼とその家族にとっては本当に悲劇だった。
 
 その事実を知ったドルトムントとマインツの両サポーターは後半からチャントを歌わずに長い間沈黙を守り、終盤に二度「You’ll never walk alone」を合唱。両軍のファンが心をひとつにしたその光景を見て、私は鳥肌が立った。
 
 こうしたファンの行動だけでなく、私は選手たちの態度にも敬意を表したい。後でわかったことだが、彼らはスタンドでなにが起きたかわからないままプレーを続けていたようだ。スタジアムが異様なムードに包まれたにもかかわらず、最後まで集中を切らさずに素晴らしいプレーを見せたのは、称賛に値する。
 
 そのマインツ戦で公式戦4試合ぶりに先発出場を飾った香川真司はまずまずのパフォーマンスを披露し、73分に1ゴールを挙げた。これで自信を取り戻しただろうし、仮に17日のトッテナム戦(ヨーロッパリーグ=EL)でふたたびベンチスタートを告げられたとしても、そう簡単には動揺しないはずだ。
 
 マインツ戦で驚かされたのは、ドルトムントがしっかりと試合を支配できたことだ。先制する30分までは相手の組織的な守備に苦しみ、香川をはじめとする攻撃陣がほとんどチャンスをつくれなかった。しかし、以降は終始優位にゲームを進め、2-0のスコア以上の実力差を見せつけた(試合レポートはこちら)。
 
 ドイツでは首位バイエルンとの勝点差(5ポイント)が注目されがちだが、私が特筆したいのは、ドルトムントが後半戦の公式戦14試合で4失点しか喫していないという事実だ。安定した戦いを披露しているだけに、EL優勝は十分に狙える。
 
 もうひとつあまり注目されていないのが、ドルトムントが歴史的な偉業を成し遂げる可能性を秘めているという点だ。ELで優勝すれば、CL、カップウィナーズ・カップに続いて3つめの欧州カップ戦のトロフィーが揃う。3つのコンペティションを制したのはこれまで、バイエルン、アヤックス、ユベントス、チェルシーの4チームしかいないのだ。
 
文:マルクス・バーク
翻訳:円賀貴子
 
【著者プロフィール】
Marcus BARK(マルクス・バーク)/地元のドルトムントに太いパイプを持つフリージャーナリストで、ドイツ第一公共放送・ウェブ版のドイツ代表番としても活躍中。国外のリーグも幅広くカバーし、複数のメジャー媒体に寄稿する。1962年7月8日生まれ。
 
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