【FC東京】「ボールを握る」から「まずは守備」に変化したスタンス。きっかけは“あの悪夢”

2016年03月16日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

「心境的には難しいけど、今は絶対に崩れない」(羽生)

元ブラジル代表FWのジョーとの競り合いでも強さを見せた森重(右)。守備はほぼパーフェクトだった。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

 アジア・チャンピオンズリーグ(以下ACL)のグループリーグ2節、ビン・ズオンとのホームゲーム(FC東京が3-1で勝利)あたりまで、FC東京の選手たちからよく聞かれたコメントは「ボールを握ることを意識してやっている」だった。

【ACL PHOTOハイライト】FC東京 0-0江蘇蘇寧

 しかし、J1・2節の仙台戦を挟んで同3節の神戸戦から展開するサッカーの色がだいぶ変わってきた。「ボールを握る」スタンスからどちらかと言えば守備的なスタイルへと変化しつつある。爆買い補強の江蘇蘇寧との一戦でも、ボールポゼッションより「良い守備から入る」(米本)戦い方で臨んでいた。

 中途半端にボールを回していた大宮戦(J1・1節)やビン・ズオン戦での体たらくが嘘のように、江蘇蘇寧戦での守備面に関しては素晴らしい出来だった。GKの秋元こそやや不安定だったが、高橋と橋本の2ボランチに、徳永、森重、丸山、小川の4バックを加えた強固な壁は、テイシェイラとジョーというブラジルコンビをも寄せ付けなかったのだ。

 それにしても、3節の神戸戦に機になぜ戦い方に変化が出てきたのか。この日、中盤で好守に絡んだ羽生は次のように話してくれた。

「(0-1で敗れた)あの大宮戦を受けて、自分たちがどんなにボールを握っていても最後やられたらなにも残らないっていうことを改めて思いました。それをうやむやにしてしまったら、今まで培ってきたものがゼロになってしまう。選手でも話し合って、『まずは守備からだ、まずはやられない』というところに行き着いた。

 城福監督はもちろん主導権を握る時間を増やしたいと思っているはずで、練習でもそういう練習をやりますけど、試合になった時にはまずはやられない。失点を減らす部分については大宮戦を経てだいぶ話すようになりましたね。

 もちろん今日も、点を取れるチャンスがもっとある、崩せるチャンスを作れるとの見方もあるけど、そこを意識し過ぎて最後に点を取られたら、それこそなにも残らない。まあ、心境的には難しいけど、今は絶対に崩れない。強い集団であることは変わらないようにしようと話してはいます」

 同じMFの米本も「大宮戦での悪夢のような失点を反省して」と言った後に「立ち返れる場所(昨季までに築いた堅守)があって良かった」ともコメントしている。

 まさに身体でジョーやテイシェイラの突進を阻止した森重と丸山の両CBの鉄壁ぶりが物語るように、今のFC東京は"昨季のFC東京"に戻りつつある。「無失点」を合言葉に泥臭い守備から入り、チャンスと見るやカウンター──。フィッカデンティ監督の下で築いたシステマチックかつディフェンシブなサッカーに活路を見出そうとしているのだ。

 それが悪いとは思わない。「ボールを握ること」を意識していた開幕当初のほうがチームとして機能していなかっただけに、今のほうがむしろサッカーとして成立している。ソリッドな守りで敵の突進を食い止めたうえで、攻撃に移るといった一種の割り切りがしっかりとピッチからも伝わってくるのだから、戦い方としては間違っていないだろう。

 とはいえ、コンスタントにゴールを奪えていないのも事実である。昨季J1で10ゴールの武藤(現マインツ)も、同13アシストの太田(現フィテッセ)もいない。いわゆる拠り所となるゴールゲッターもチャンスメーカーも現時点で不在なのだ。
 
 

次ページ現状ではフィッカデンティの遺産で食いつないでいるようにも見える。

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