【FC東京】デビュー戦で躍動。小川諒也を押し上げた3つの偶然とベテランの存在

2016年03月03日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

シーズン開幕前は左SBの3~4番手だったが。

前半からアグレッシブにプレーした小川(25番)。終盤の84分にはCKから前田のゴールをアシストした。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 2月27日のJ1開幕戦(ホームの大宮戦)から先発6人を入れ替えて臨んだビン・ズオン戦で左SBに抜擢されたのが、プロ2年目の小川諒也だった。ルーキーイヤーの昨季はFC東京で公式戦に出場できず、ピッチに立ったのはU-22選抜の一員として戦ったJ3の山口戦(15年3月21日)だけだった。

【ACL 第2戦/フォトギャラリー】FC東京 3-1 ビン・ズオン

 シーズン前のチーム内での序列は、左SBの3~4番手。磐田から加入した駒野友一、明治大学に在学したままプロ入りを決断した室屋成、さらにCBが本業ながら昨季J1で数試合左SBを任された丸山らに続く戦力と当初は見られていた。

 ところが、宮崎キャンプの初日に室屋がいきなり左足ジョーンズ骨折で戦線離脱(全治3~4か月)。さらに全北現代とのアジア・チャンピオンズリーグ(以下ACL)初戦で右ふくらはぎを負傷した駒野が、リーグ開幕からの数試合を欠場する見込みとなった。「昨季は公式戦に出られず悔しい想いをしたけど、挫けずにしっかりと練習してきた」小川はそうした"偶然"も重なったおかげで、大宮とのホーム開幕戦ではJ1リーグでプロ入り初のベンチ入りを果たすと、続くACLのビン・ズオン戦でついに先発のチャンスを掴んだ。

「ビン・ズオンとの試合前、バスで移動中は緊張しました。顔が強張っていたのか、みんなに『諒也が緊張している』と言われました。前日はそこまでではなかったですが、ゲームが近づくにつれて緊張してしまいました」

 そんな小川を優しく見守るベテランがひとりいた。羽生直剛だ。

「試合数日前のあいつ(小川)のコメントを見たら、『緊張はまったくしない』と書いてあった。強心臓だなと思ってそのネタでいじっていたら、『実は緊張しています』と言われて。だから、すかさず『格好つけんな。緊張しているって言えばいいじゃねえかよ』って突っ込みました(笑)」

 試合前、羽生は小川にこうアドバイスしたという。

「仕掛ける時は思い切って仕掛けろ。中途半端なことはしなくていい。仕掛けてボールを取られるのは構わないけど、後ろのほうで消極的なプレーは止めろと言いました。城福監督からは僕と諒也を近くに置いた意図も聞いていた。僕と一緒に出ている時は、周りの選手に気持ちよくプレーしてもらいたい。それが僕の生きる道でもあるので」

 ベテラン・羽生のサポートもあったからだろう。小川は立ち上がりから果敢に仕掛けた。左サイドを駆け上がり、チャンスと見るやクロスを放り込む。もちろん、本業の守備でも対峙したビン・ズオンの7番、ヘンリー・キセッカに自由を与えず、アピールに成功した。

「最初にいくつかパスをつなげられたおかげで落ち着けました。7番の身体能力の高さは聞いていたので、やられないようにしました。SBはDFですから、まずは守備の部分をしっかりやる。あとはがむしゃらを出そうと心掛けました」
 
 

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