なぜジュビロはJ1自動昇格を勝ち取れたのか? 指揮官のブレない信念、最終節に凝縮された“どんな状況でもベストを尽くす”

2023年11月13日 河治良幸

開幕戦は岡山に2-3敗戦

2位清水と勝点1差で迎えた最終節。清水は水戸にドロー決着、栃木に勝利した磐田が逆転でJ1自動昇格を勝ち取った。(C)J.LEAGUE

「まずは選手のストロングを活かしてあげたい」

 最初にコンセプトを訊くと、ジュビロ磐田の横内昭展監督はそう語った。それは同時に、戦術で個性を殺したくないという思いも含まれている。

 もちろん試合に勝つために、チームの戦術的な約束事はある。それでもベースは個人というのが、横内監督がチーム立ち上げから強調してきたことだった。ではチームとしてはどういうサッカーがしたいのか。

「チーム全員で、とにかく試合に関わりたいという。とにかくボールに関わって、フォワードであろうがゴールキーパーであろうが、守備だろうが攻撃だろうが、どこにボールがあっても、みんなが常に関わっているサッカーをやりたい。そういうサッカーをやれれば、しっかりクリエイティブなコンビネーションだったり、そういうのが生み出されるんじゃないか」

 藤田俊哉SDはボールを大事にして、自分たちで攻撃を組み立てるアクションサッカーを基本コンセプトとして、日本代表のコーチとして森保ジャパンを支えてきた横内監督に、ジュビロの現場を託すことを決断した。ただし、指揮官のアプローチはシステムや戦術の形から入るものではなく、まず個を磨くというもの。
 
"ラッソ"ことFWファビアン・ゴンザレスの加入に関連する問題で、FIFAから2023シーズンの補強禁止処分が下され、エース候補でもあったラッソも5月の上旬まで出場停止という厳しい状況だった。

 なんとか現有メンバーを引き留めて、パリ五輪代表候補のDF鈴木海音など、4人の選手をレンタルバックした。横内監督は遠藤保仁など、ベテラン選手の経験を頼りにしつつ、試合を重ねながらチーム力を引き上げるミッションに挑むこととなった。

 チームの立ち上げから鹿児島キャンプと進めていくなかで、練習試合でもJ2でライバルとなる大分トリニータや清水エスパルスに敗れて、内容的にもかなり劣勢だった。しかし、横内監督はブレることなく個人のデュエルや球際で負けないことをベースにしながら、徐々にチームとしての守備やビルドアップ、コンビネーションも入れていくことで、個人とチームを並行して高めてきた。

 もちろん、シーズンはチームの成長を待ってはくれない。2月18日の開幕戦ではファジアーノ岡山に2-3で敗れた。終盤に当時17歳だった高校生Jリーガーの後藤啓介が2ゴールを決めて衝撃のデビューとなったが、それまで0-3という点差そのままの内容で、かなり厳しい船出となった。

【動画】感極まる場面も...横内監督のインタビュー

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