【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の五十四「強い集団に不可欠な“人材の多様性”。レイナや森脇のような存在の重要度とは?」

2016年01月21日 小宮良之

集団がうまくいくためには、従順な選手ばかりを集めればいいというわけではない。

EURO2012優勝祝勝会で自らマイクを手にして場を盛り上げるレイナ(右)。集団を機能させるという意味で、この底抜けに明るいムードメーカーは黄金時代のスペイン代表に欠かせないキャストのひとりだった。(C)Getty Images

 プロサッカークラブが1シーズンという長丁場を戦いきるには、様々な人材が必要になる。楽観的で強気な選手だけでなく、状況を観察し、冷淡でいられるような選手も必要になるだろう。集団は支点を中心にして、どちらにでも傾く天秤に乗っているようなもの。競争心だけが激しくても一枚岩になれないし、仲良しになりすぎてしまっては緊張感が失われてしまう。
 
「チームには、様々なキャラクターでチームを引っ張る選手がいるべきだろう」
 
 そう語っているのは、かつてFCバルセロナの主将を務めて数々の栄冠を勝ち取ったカルレス・プジョールである。
 
「集団がうまくいくためには、従順な選手ばかりを集めればいいというわけではない。グループに刺激を与える、いわばヒールのような選手も必要なんだ。自己主張が強く、わがままだが、仕事だけはやるようなタイプ。バルサで言えば、(サミュエル・)エトーはそれに近かった。彼のように我を出して戦える選手がいたおかげで、チームの空気は淀まず、新鮮なまま保てた。プロの常勝軍団は馴れ合ってもいけない」
 
 勝利する集団のキャプテンとして、なんとも含蓄のある証言である。人材の多様性は、チームとしての厚みを加えるのに欠かせない。それはクラブだけでなく、代表チームにも同じことが当てはまるだろう。集中開催のメジャートーナメントを勝ち抜くチームを作るには、それまでの実績や能力が第一プライオリティーになるが、23人全員がプレークオリティーだけを基準に選ばれなくてもいい。
 
 例えば2010年に世界王者、2008年と2012年に欧州王者に輝いたスペイン代表は、第3GKにムードメーカーのホセ・マヌエル・レイナ(現ナポリ)を入れていた。彼以上のパフォーマンスを見せていた若手の台頭はあったが、第3GKはほとんどプレー機会が巡ってこない。それを踏まえて、ルイス・アラゴネスとビセンテ・デル・ボスケの両監督は、"バカになって"チームメイトの気を紛らせ、リラックスさせられるレイナのパーソナリティーを買った。

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