J2に戻らないと何も始まらない。愛媛FCの石丸清隆監督がこだわる“小さな積み重ね”

2023年08月12日 元川悦子

目に見える結果で恩返しを

“再登板”2年目の石丸監督。地道な指導でチームを高みに引き上げている。(C)EHIMEFC

 2023年シーズンのJ3も折り返し地点を過ぎ、8月5・6日の段階で21試合を消化した。現時点で首位を走るのは、11勝7分3敗の勝点40を稼いでいる愛媛FC。彼らは6月17日の奈良クラブ戦から8戦無敗というしぶとさ、粘り強さを見せつけている。

 昨季を見ても分かる通り、8月を無敗で乗り切ったいわきFCがトップでJ2昇格を果たし、7~10月をわずか1敗で乗り切った藤枝MYFCが2位に滑り込んでいる。それだけ夏場の戦いが重要なのは間違いない。

「夏を制する者がJ3を制する」と言っても過言ではないだろう。

「僕らも後半戦初戦だった7月29日の松本山雅戦(1-1)は正直、不甲斐ない内容でしたし、反省材料が多かった。最後に追いついたってことで『上手くいってる』って捉え方があるかもしれませんけど、もっと先手を取りたい。チームとしては実際のところはそこまで上手くいってる状況ではないと感じているので、ここからもう一段階ギアを上げていく必要があると思ってます」と、2022年から指揮を執る石丸清隆監督は厳しい見方をしている。

 それも「今季は絶対にJ2復帰を果たさなければいけない」という強い覚悟の表われなのだろう。

 大阪の名門・枚方FCでボール技術を徹底的に磨き、阪南大からアビスパ福岡入りし、京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)、愛媛と、Jリーグ3クラブでプレーした石丸監督。彼は頭脳的なテクニシャンとして名を馳せたプレーヤーだった。指向するサッカースタイルも、ボールを回して敵を凌駕する攻撃的かつ華麗なスタイルだったに違いない。

 そういう考え方は2006年の引退後、愛媛で指導者キャリアを踏み出してからもあまり変わらなかったようだ。監督として采配を振るった2013~14年もそういう傾向が見て取れた。
 
 とはいえ、2006年から16シーズンもJ2に在籍していた愛媛が、J3に落ちたタイミングで古巣に戻ってきた時、彼自身のスタンスは微妙に変化していたという。

「まずは勝たなければ何も始まらない。チームをJ2に復帰させることが自分のミッション」という強い自覚を持って、チーム作りを始めたのである。

 指揮官は神妙な面持ちで言う。

「自分は約10年間、監督業をやらせてもらってますけど、愛媛に戻ってきたタイミングで『現実路線に舵を切らなきゃいけない』と心底、思った。それはJ3という環境が非常に大きな要素でした。

 J2だったら『攻撃的サッカー』『見る者を魅了するスタイル』といった理想論をクラブが掲げても良かったかもしれない。自分もそういう方向性を理解したうえで進んでいました。だけど、今は大前提として上がらないと意味がない。それが一番大事なことなんです。

 もちろん、今までも勝利を目ざしてはいましたけど、どことなくモヤモヤした部分がなかったとは言い切れない。僕らは『良いサッカーをしていたらいいよね』『お客さんが喜ぶサッカーをしていたら良いよね』といったスタンスから脱却しないといけなかった。

 やはり目に見える結果を残して、指導者として育ててもらったクラブに恩返しをしたい。そう心を決めて、愛媛で仕事を始めたつもりです」

 けれども、1年目の昨季は7位。序盤から苦戦し、シーズン終盤は昇格争いから脱落。最終的にいわきと藤枝に2枚の切符を奪われた。その悔しさはひとしおだったに違いない。

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