権田修一と大久保択生の教え。清水内定GK猪越優惟は“大丈夫、俺がいる”を示すため、自覚を行動に変えていく

2023年07月30日 安藤隆人

「今まで知らない世界を教えてくれた」

偉大なベテラン2人の背中を追いかける猪越。写真:安藤隆人

 帝京長岡高時代から足もとの上手さとダイナミックなセービングが魅力のGKだった。卒業後は中央大に進学し、そこでさらに力強さと足もとの技術を磨いた猪越優惟は、来季から清水エスパルスでプレーすることが決まっている。

「衝撃でした。技術もそうですが、意識の違いを思い知らされました」

 清水に練習参加したのは今年1月のこと。始動のタイミングからキャンプまでの1か月間、チームに帯同した。そのなかで感じたのは、偉大なる先輩GKたちの『あるべき姿』だった。

 守護神を張るのは権田修一。言わずと知れたカタール・ワールドカップの日本代表正GKだ。そしてセカンドGKはプロ16年目の大久保択生。これまで横浜FC、千葉、長崎、FC東京、鳥栖、清水を渡り歩き、Jリーグ通算194試合(7月30日時点)を誇る経験豊富なベテランだ。

 この2人が猪越に見せたのは、プロとしての心構えと、『勝負は細部に宿る』ということだった。キャッチング1つにしても、クロス一本一本に対して手首の角度、指の広げ方、そして感触を確かめながら質を高めていく。

 シュートへの反応も一歩目のタイミングと強度にこだわり、何度も確認をしながら自分の形の精度を少しでも高めようという姿勢を見せる。

 日々の練習で細部に意識を張り巡らし、かつこだわり続ける。まさに本物のプロフェッショナルの姿を目の当たりにし、いざ自分にベクトルを向けると、全然気にしていなかった自分の甘さを痛感した。
【PHOTO】炎天下の中、笑顔でトレーニングに励む清水エスパルスを特集!
「自分が今まで知らない世界を教えてくれた。高校、大学でもいろんな方に影響を受けたのですが、ここまでの感覚になることが初めてで、『ここでやれば僕も成長できるし、試合に出られるようになれば自分が目ざしている高みにも近づける』と思った」

 キャンプ後、彼は清水に進むことを決断した。決意新たに迎えた大学最後の1年は、猪越にとって苦しいシーズンとなっている。今季から関東大学1部に昇格した中央大だが、12試合を消化して、わずか1勝しか挙げられず、最下位に沈んでいる。

 アミノバイタルカップでは猪越の活躍もあって、関東第5代表として総理大臣杯への出場権を手にすることはできたが、キャプテンであり守護神である彼はチームを上向きにするべく悪戦苦闘中だ。

「僕にできることは、選手やいろんな人とコミュニケーションを取ること。勝てないから落ち込んだり、雰囲気が暗くなったりするのではなく、むしろコミュニケーションを増やすことで好転のきっかけを作りたい」

 チームリーダーとしての自覚を行動に変えていく。それはプレーも同じだ。

「余裕を持ってプレーすることがキーパーにとって大事だと学びました。権田選手はワールドカップという、とてつもなくプレッシャーがかかる舞台で、あそこまで堂々とプレーしている。大久保選手もリーグ戦でなかなか出場できないなかで、ルヴァンで出場すると安定感抜群のプレーをします。

 それは2人とも準備をしっかりとしているからこそですし、キーパーとしての余裕があるからこそ、周りは信頼するのだと思います。そう考えると自分は本当に経験が足りないし、ちょっとピンチが来ると慌ててしまったり、想定外のことが起こるとちょっと迷ってしまったりするので、そこは2人の真似をするというか、意識しています」

 どんな時も落ち着き、「大丈夫、俺がいる」とプレーで示せる守護神になるために。「教えてもらったことは、ここでは挙げきれないほどたくさんある」と語ったように、自らの経験を惜しげもなく教えてくれた偉大なベテラン2人の背中を追いかけながら、猪越はこの苦境を乗り越えんとしている。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

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