「ボールが彼を愛するように寄ってきた」同僚マラドーナがそう評した伝説ストライカーの“極意”

2023年07月03日 小宮良之

「ほとんどボールを触らないのに...」

3度のラ・リーガ得点王に輝いたキニ。(C)Getty Images

 ストライカーの資質を語るのは簡単ではない。

「ボールを呼び込み、ネットに叩き込む」

 単純明快な作業だが、ピッチでは最も困難である。なぜなら、相手もそれを死に物狂いで防ごうとする。そのせめぎ合いを制するのは、最後は運や天分が必要とも言われる。

 スペインフットボール史上伝説のストライカーと呼ばれるキニは、突出したゴールセンスを持っていた。1970年代、スポルティング・ヒホン、FCバルセロナで活躍。5回のラ・リーガ得点王は、歴代3位の記録だ(ちなみに1位はリオネル・メッシの8回で断トツ)。

「キニは、今の時代には見かけなくなったタイプの選手だった。(元アルゼンチン代表の)マルティン・パレルモに近かったか。90分間、ほとんどボールを触らないのに、左足で触れば、最高の左を見せたし、右足で触っても、最高の右となった」

 バルサでキニとチームメイトだったディエゴ・マラドーナは、そう説明しているが、こうも語っていた。

「いつの間にか、ボールが彼を愛するように寄ってきた。彼はそういう選手だった」

 キニは、誰よりも"ボールに愛されるストライカー"だったという。うまくも、速くも、強くもない。しかし、ボールに愛されていたという。それはポジショニング、ゴールの匂いを嗅ぐ、というセンスなのだろうが...。

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 練習場でプレーを見ているだけでも、なぜかその人のいる方にボールが転がるという現象はある。それはスペインでは、「犬や猫を普段から可愛がっている人が、道ばたで犬や猫に出くわしたとき、寄り添ってくる感覚に近い」とも言われる。

 ボールが意志を持っているはずはないが、そうした天恵のようなものでなければ、説明がつかないような感覚は存在している。

 ばかげた妄想とも言えるが、「神様」と言われたマラドーナの表現であることを忘れてはならない。

「ボールに好かれる」

 それは異能で、その力を授かったストライカーが、不思議とゴールネットを揺らすのだ。
ゴールに近づくほど、多くの選手は技術精度が様々な理由から落ちる。それはより激しさが増すからで、一つの原理である。しかし、そうしたストライカーたちはむしろ、原則に反してうまさが上昇する。だからこそ、ボールもこぼれる。ゴールに蹴り込んでくれることを知っていたかのように...。

「こんなにうまい選手だったか!?」

 周りが驚嘆するわけだが、そこにストライカーの極意が見える。キニは、その典型だったのだろう。

 日本人では、岡崎慎司、大久保嘉人が好例か。ボールに愛される。その天分はゴールへの執念とも言えるし、単純に動きの質の良さでもある。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。


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