ガルナチョの衝撃――大スランプから這い上がった同志社大GK波多野崇史の決意。成長の跡が見えた2つのビッグセーブ

2023年06月17日 安藤隆人

将来を担う守護神として注目を集める

苦しんだ1年を経て、選手としても人間としても成長した波多野。写真:安藤隆人

 関西学生サッカーリーグ1部の第9節、同志社大は桃山学院大を1-0で振り切って、今季リーグ戦初のクリーンシートでの勝利を手にした。

「チームとしても個人としても嬉しい試合でした」

 試合後、笑顔を見せたのは同志社大2年生GK波多野崇史だ。終盤に相手の2度の決定機をスーパーセーブで凌ぐなど、完封勝利の立役者となった男は、今年にかける想いが相当強い。

「もう昨年でありとあらゆることを経験して、自分の中で価値観というか、サッカーに向き合う意味、自分の技術レベルを上げる意義をしっかりと整理することができたんです」

 昨年はまさにジェットコースターのような時間を過ごしていた。波多野は中学時代から全国の舞台で輝かしい成績を残してきた。中学生の時はサンフレッチェ広島ジュニアユースで中学3年生の時に日本クラブユースサッカー選手権U-15で優勝を経験。広島ユースでも3年時にプレミアリーグWESTを制した。

 トップ昇格こそできなかったが、同志社大に進学すると、すぐに出番を掴み、6月にはU-19日本代表としてモーリスリベロトーナメント(旧トゥーロン国際ユース)に出場し、5・6位決定戦にフル出場を果たした。帰国後、広島の練習に2週間参加。将来を担う守護神として一気に注目を集めた。
 
 しかし、この直後から波多野の名前はパタリと聞かなくなった。

「自分の人生において、これまでなかったくらい順風満帆に行っていると思ったのですが、上のレベルを見れば見るほど、もう自分が自分でなくなったというか、何をしても上手くいかない感覚に陥ってしまったんです」

 広島のアカデミーでは先輩である大迫敬介を目標に、持ち前の身体能力とアグレッシブさを武器に自信を持ってプレーしていた。それは大学に入ってからも変わらなかったが、彼の中で大きな転機となったのが、モーリスリベロトーナメントで戦ったアルゼンチン代表のエースストライカーであるFWアレハンドロ・ガルナチョの圧倒的な技術だった。

 当時17歳だったガルナチョは、この大会の直前にマンチェスター・ユナイテッドでプレミアデビューを果たしており、マンUとアルゼンチンの将来を担う選手として世界の注目を浴びる存在だった。そのガルナチョに波多野は先制点を奪われた。

「シュートセンスがずば抜けていた。シュートのパワー、正確さ、スピード、駆け引きのレベルが数段上を行っていた。一瞬、身体を開いたり、目線だったり、ちょっとした駆け引きで全て上を行かれていた。反応しているのに、『絶対に止められない』と思ってしまったんです」

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