埋もれた原石を見逃さない。部内リーグ創設など部員全員に門戸を開く相生学院は、いくつもの育成改革のヒントを提供

2023年06月15日 加部 究

決勝のスタメンで3年生は1人

惜しくも準優勝だったインハイ予選では、初戦から決勝まで同じスタメンが1度もなし。最終的には22名の選手たちがピッチに立った。写真提供:相生学院高校

 インターハイへの出場校が続々と決まっている。もちろん全国大会への切符を獲得した選手たちは、歓喜を爆発させる。しかし高体連は、真夏に無茶な日程で強行されるノックアウト方式のカップ戦を、いったいいつまで続けていくのだろうか。

 それだけではない。高体連には、いまだに世界に伍して戦う選手たちを育成していくには矛盾に満ちた旧弊が残っている。例えば、今年目を引いたのが兵庫県大会の決勝だった。

 下馬評で大本命と目されていたのが神戸弘陵である。新チームが発足して間もなく県の新人戦を制すと、近畿大会でも初戦で和歌山北に5-0、準々決勝では興国に4-1、準決勝も桃山学院に4-0と他を寄せ付けぬ強さを見せつけた。

 残念ながら決勝戦は修学旅行と重なり棄権をすることになったが、インターハイの兵庫県予選でも5バックでスペースを消してくるライバル校を圧倒し順調に決勝まで勝ち上がった。

 ところが、そんな神戸弘陵に決勝戦で真っ向勝負を挑んだのが、スタメンに3年生が一人しかいない相生学院だった。

 通信制の相生学院高校サッカー部は、5年前に「プロ選手の育成」をテーマに淡路島を拠点にスタートしたプロジェクトで、上船利徳監督は「守って勝てたとしても、それではプロにはなれない」と、時にはサイドのスペースが空くのも承知で攻撃的なポゼッションを貫いた。
 
 確かに決定機の数では神戸弘陵が勝り、前半終了間際のゴールが勝負を決めたが、最後までGKも交えて落ち着いて丁寧に繋ぎ続ける若い相生学院の健闘も印象的だった。

 相生学院は一昨年まで少数精鋭で、個々の育成に向き合って来た。だが、中学生年代の選手の未来を見極めるのは至難の業で、それはJクラブでユース昇格を逃した中村俊輔や本田圭佑らの急激な右肩上がりの成長曲線が象徴している。

 そこで上船監督は「誰がどう伸びていくか判らない」以上、自分が見込んだ全ての選手たちを受け入れ、平等にチャンスを与えていこうと方向転換をする。

 結局、全サッカー部員を、実力の序列ではなく様々な志向ごとのチームに振り分け、各チームには適切な監督をつけて部内リーグを創設。「淡路プレミアリーグ」と命名した部内公式戦を、トップチームへの登竜門と位置づけた。

 つまり淡路プレミアリーグを「Jリーグ」、対外公式戦に出て行くチームを「日本代表」に見立てることで、在籍選手の誰もが「代表入り」のチャンスがあることを意識させ、全員のモチベーションと競争意識を保つ。

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