間違いなく幸運、だが引き寄せたのは名古屋の執念。藤井はパンクしたボールを思い切り叩き、満員のスタジアムを揺るがした

2023年05月04日 今井雄一朗

試合を通して主導権のほとんどは神戸にあった

神戸戦は2-2のドロー決着。藤井の劇的同点弾で勝点1を掴んだ。写真:鈴木颯太朗

[J1第11節]名古屋2-2神戸/5月3日/豊田スタジアム

 奇跡的な瞬間はあるいは、4万798人の大観衆が呼び寄せたのかもしれない。首位の神戸は分厚い強さを誇示し、名古屋の目論見は2点を先制されるという劣勢の前に潰えるかと思われた。
【PHOTO】名古屋の出場16選手&監督の採点・寸評。ミスが目立った藤井だが同点弾で評価アップ。長澤はチームを復活させた
 だが、中谷進之介は言う。「やっぱり4万人、入ってるだけあって雰囲気が出たし、簡単に負けられないっていう思いは全員あった。それがスタジアムと一体となって、選手に勇気を与えてくれたんじゃないかな」。

 正直に言って、試合を通して主導権のほとんどは神戸にあった。だが、名古屋は負けなかった。執念をたぎらせ、最後の最後まで攻め続けた結果が、まさかのアディショナルタイム5分表示の末の、"90+8分"の同点弾である。ホームで勝てない日々は延長されたが、この試合に負けなかったことは驚異的だ。
【動画】ユンカー&藤井のゴールをチェック!
 ネバーギブアップ。かつてチームをリーグ優勝へ導いた名将の座右の銘が、まるで息づいているかのような粘り腰だった。立ち上がりから大迫勇也、武藤嘉紀を利した神戸のシンプルな攻撃に手を焼き、後手を踏んで11分で失点。その後も猛攻にさらされ反撃もなかなかできないなかで、名古屋は最初の"割り切り"をする。

「前半でもう1失点したら苦しい展開になる。前半で2点決められていたら、たぶん3~4失点していた」(米本拓司)

「あそこで2点目を決められてしまうと、ちょっと試合が終わっちゃう感がある。前半は0-1でもしょうがないという戦い方を」(中谷)。

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 闇雲に劣勢へと立ち向かうのではなく、90分を通したマネジメントに目を向け、守備の選手たちはとにかく試合を落ち着けることに腐心した。球際に粘り強く、とにかく食い下がり続ける。

 後半はそれでも流れが変わらないなかで、長谷川健太監督が3枚替えを実行しようとした矢先に2失点目を喫し、出鼻はまたしてもくじかれた。

 それでも名古屋はたくましかった。腹が据わっていたとも言える。中谷はこの時、さらなる割り切りを心の中でしたというのだ。

「後半の初っ端に2点目を決められたけど、それは逆に湘南戦の逆パターンだなっていうのは自分の中で冷静に思えた。3失点しなければ、可能性はあるんじゃないかなってところを、自分の中で開き直れた」
 

次ページAT5分の表示。スコアはまだ1-2

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