連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】「勝てる試合を落とした」クラブ・アメリカの甘さとメキシコの限界

2015年12月14日 熊崎敬

前に出てくる広州の背後を何度も突いたが、詰めに甘さを残したクラブ・アメリカ。

後半は概ねクラブ・アメリカのペースで試合は進んだが、残り10分に落とし穴が待っていた。電光石火のカウンターとセットプレー一発に沈んだ。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

 メキシコの強豪クラブ・アメリカが、格下アジアの広州恒大にショッキングな逆転負けを喫した。
 
 アンブリス監督は記者会見で記者団から解任について問われ、スタジアムを出る選手バスにはサポーターから罵声が浴びせられた。無理もない。たくさんのサポーターがバルセロナとの決戦を心待ちにして、遠い日本にやって来たのだ。
 
 広州は悪い流れの中でもあきらめなかったことが勝利につながったが、クラブ・アメリカからすればアンブリス監督が述べたように「勝てる試合を落とした」ということになる。
 
 前半は互角に近い戦い。だが55分に先制した彼らは、敵のミスに救われた大ピンチを迎えながらも、徐々に試合の流れを掴んでいった。
 
 巧みなパスワークで広州を揺さぶり、面白いように敵の背後を突く。近くの記者が「やっぱりクラブ・アメリカが一枚上手だね」と語っていたが、私もそれに近い思いだった。
 
 だが、彼らは逆転を許してしまう。
 それはメキシコの記者が会見で指摘したように、交代の遅さもあっただろう。2点目については、飛び出しながらボールに触れなかったGKのミスもある。
 
 だが、そうしたことは各論に過ぎない。クラブ・アメリカは勝利を確信したことで墓穴を掘ってしまったのだ。
 
 前述したように先制した彼らは、その後、リスク承知で前に出てくる広州の背後を何度も突いた。だが、詰めに甘さを残した。プレーから丁寧さがなくなり、功名心に逸るような強引なフィニッシュも目についた。守備陣も不用意にバランスを崩してしまう。
 
 たった1点なのに、先制してリズムに乗ったことで、彼らは「勝てる」と思い込んでしまったのだ。
 
 これはクラブ・アメリカというより、メキシコの限界かもしれない。
 ワールドカップのメキシコは6大会連続でグループリーグを突破しながら、すべてベスト16で敗退している。
 
 安定した結果を残しながら、もうひとつ突き抜けられないのは、いいものを持っていても勝ち試合を確実に終わらせられないからである。
 
 だが勝負に辛くなりきれないのも、致し方ないことだ。というのは、南米のウルグアイ、ヨーロッパのギリシャに代表されるような油断も隙もならない曲者が、この国のライバルにはいないからだ。
 
 素晴らしいテクニックがあるのに、肝心なところで負ける。
 明るく愉快でいられる限り、彼らは世界で勝つことができないのかもしれない。
 
取材・文:熊崎 敬
 
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